「在宅死」を現役医師が必ずしも勧めない理由 家族の疲弊を考えれば病院死も選択肢に入る
医師として「最期は在宅で」と勧められない理由
南 杏子(以下、南):今回の私の『サイレント・ブレス』は、病院ではなく在宅で亡くなっていく方々の最期を書いたのですが、香山先生も、お父様を在宅で看取られていますよね。でも、そのご経験から介護や看取りのあり方について考察された『看取りの作法』(祥伝社新書)では、在宅介護は「基本的には『医療の拒否、医療の否定』にもつながる」ので、医師としては「病院に行かずに在宅で」とは言えない、と書かれています。
香山 リカ(以下、香山):私の父の場合は、命を終えるぎりぎりのタイミングで病院から連れ帰り、最後の半日あまりを自宅で過ごしただけなので、「在宅で看取りました」と胸を張って言えるようなものではありませんが、私も母もそうしてよかったと、心から思っています。
ただ、個人としてその選択に悔いはないのですが、医師としてはどうしても、「これからは積極的に在宅看取りを勧める活動をしよう」という気になれないんです。
私の専門の精神医療と終末期医療とは事情が違いますが、それでも、自分が診ている患者さんが「病院にはもう来ません。薬もけっこうです」とおっしゃったら、「そんなことは言わずに通ってください。薬もきちんと飲んでください」と、医療を強く勧めると思うので。
それともうひとつ。理由としてはこちらのほうが大きいのですが、もし「病院死」よりも「在宅死」のほうが正しい、好ましいとしても、家族にとっては負担が大きい。誰もがそれを実行できるわけではないと思うからなんです。