「在宅死」を現役医師が必ずしも勧めない理由

家族の疲弊を考えれば病院死も選択肢に入る

香山:女性が受けるDV(家庭内暴力)や性暴力、セクシャル・ハラスメントなどの被害を、ジェンダーの問題としてとらえて、心理的にサポートしたり、法的に支援したりする「フェミニスト・カウンセリング」という活動があります。この活動での基本的な考え方は、「Personal is political.」です。

つまり、どんな個人的な問題に見えることであっても、背景には社会や政治の問題があるという考え方です。

たとえばDVを受けた女性は、「これはうちの夫婦の問題なんだ」「私にいたらないところがあるから、夫は私を殴るんだ」と思いがちなのですが、そうではなくて、それは、社会全体に根強くある、男性‐女性の支配‐被支配関係や、それに基づいた制度、ひいては政治の問題に起因するんだという視点から、解決していくやり方です。

南先生が経験された介護の話も、まさにそういう問題ですよね。

:そう思います。そういった活動を知らなくても、せめて、あの頃の私が香山先生の『看取りの作法』を読んでいたら、それだけで、もっと気持ちが楽になっていただろうなと思います。

死んだ祖父の体に触れなかったことへの後悔

介護の経験は、医療の道に進むきっかけとなったんでしょうか?

香山:おじいさまは、ずっと在宅で看ていたんですか?

:基本的に在宅です。祖母があまりに疲れてしまうと、1~2週間、検査入院という形をとらせてもらったりしていましたが。

大学に行っているときに、祖父の死の知らせを受けたのですが、「ああ、終わった……」という感覚になって、呆然としながら電車に乗って家に戻ったことを今でもよく覚えています。

香山:南さんは、大学卒業後、会社勤務を経て医師を目指されたわけですが、そのときの介護の経験は、医療の道に進むきっかけとなったんでしょうか?

:そうですね。医学部に入ろうと思ったときは、はっきり意識していたわけではありませんが、「自分がどうしたら病人の役に立てる人間になれるのか」という思いの根っこには、祖父との体験があったのだと思います。

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