「治療をしない医療」を医療と呼んでいいのか 終末期には「患者の生きる力を邪魔しない」
アルコールも夜更かしもOKの病院
香山 リカ(以下、香山):南先生は、現役の医師でいらっしゃるんですよね?
南 杏子(以下、南):はい。高齢者専門の病院に勤務する内科医です。数十名いる医者の1人です。
香山:デビュー小説である『サイレント・ブレス』の主人公・倫子(りんこ)が、訪問診療が中心のクリニックで働く女性医師なので、南先生ご自身がモデルなのかと思ったら、そうではないのですね。
南:はい、そのように言われることが多いのですが、実は違うんです。
香山:なぜ訪問クリニックを舞台にされたんですか?
南:勤務している病院では終末期医療が中心で、そこでイメージは膨らんだのですが、小説としてのストーリー展開を考えると、病院が舞台だと、どうしても場面が単調になってしまうんです。訪問診療ですと、患者さんの自宅が医療の現場になるので、家族関係を描きやすいと思いまして。
香山:そういうことなんですか。ではまず、リアルなほうのお話をお聞きします。終末期医療が専門ということですが、具体的には、どんな病院なんですか?
南:入院患者さんの平均年齢は88歳で、約9割が認知症の方です。ご本人もご家族もみなさん「最後の病院」のつもりで入院され、私たち医療スタッフが、最後の看取りまでさせていただきます。
こちらから胃瘻(いろう)を勧めたり、人工呼吸器で延命したりするようなことはせず、基本的に、「無理に命を長引かせるための治療」はしません。
たとえば、他の病院で塩分制限をされてきた腎臓病の方や、甘いものを制限されてきた糖尿病の方でも、可能な限り好きなものを食べていただいています。タバコもアルコールも夜更かしもありです。人生の最後の日々を、できるだけ自由に気持ちよく、楽しく過ごしていただきたいという方針の病院なんです。