「治療をしない医療」を医療と呼んでいいのか 終末期には「患者の生きる力を邪魔しない」
香山:治療をしないのに患者さんが元気になるということは、医療に医者なんていらないとも解釈できる。そう思って虚しくなることはありませんか? 私が南先生のお立場だったら、そう思ってしまうような気がします。
南:医師の存在意義をどうとらえるかにもよると思うのですが、過剰な延命治療をしない終末期医療においても、感染症の治療や、痛みをなくすなどの緩和的ケアは求められていて、その点では、医者は必要な存在だと思います。
香山:ああ、それはそうですね。
精神科の先生も終末期医療にとって欠かせない
南:香山先生のような精神科の先生も、終末期医療にとっては、欠かせない存在なんです。たとえば私が勤務している病院でも、眠れなくて辛いと訴える患者さんは多いのですが、一人ひとりの患者さんの状態に応じて「この方には、睡眠薬じゃなくて、まずは環境調整でいきましょう」など、精神科の先生には、いろいろと判断してサポートしてもらっています。
香山:南先生のような内科医と精神科医が、ちゃんと連携できているのはいいですね。不眠の場合、精神科医は比較的、気軽に薬を出しがちなので、そこでそのような判断ができるのは、本当に偉いと思います。
南:ある精神科医は、「『薬を出したら食事をしなくなった』と言われるのがいちばんつらい」と言っていました。
認知症の患者さんの場合は、ときに行動が暴力的になったり、大きな声を出したりという症状が出ることがあります。そのようなときは、精神科医も薬を出します。ご本人が心身ともに消耗しますし、周りの患者さんとの関係もありますし、現実的な問題としてケアにあたる職員の負担も考えないといけませんので。患者さんのご家族も、そこについては納得されます。
ただ、薬のせいで、患者さんが終日、ベッドでぐったりした状態になってしまわないよう、最小限の処方で、患者さんが穏やか、かつ幸せでいられるようにするのが目標。そういう細やかな配慮をしてくださるので、精神科の先生には頭が上がりません。
(構成:須永貴子 撮影:風間仁一郎)
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