「心を強くする」には運動が欠かせないワケ うつ病の治療と予防には定期的な運動が効く

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研究グループは結果的に、こうした条件を満たした過去の大規模調査を複数発見し、それらの被験者をすべて合わせると、成人男女114万以上のデータを得ることができた。

この膨大な数の人々の運動と精神的な健康の関係性を調べると、重大な発見があった。有酸素運動の仕方によって被験者を3つのグループに分けたところ、運動量が最も少なかった男女のグループは、最も多いグループよりもうつ病を患う確率が約75%も高かった。中間のグループについては、最も運動量の多いグループよりもうつ病になる確率は約25%高かった。

2つめの研究では、研究者らは運動がうつ病の治療に効果的かどうかを調べた。「ジャーナル・オブ・サイキアトリック・リサーチ」に6月に掲載されたこの研究は、うつ病の診断・治療を受けている人がなんらかの運動を行ったケースについての過去の25の研究を検証した。どの研究も運動を行わない対照群との比較を実施している。

結果、早歩きやジョギングなど特に適度に活発で、運動プログラムが完了できるように監督されている場合、運動はうつ病に対して「大きく、重大な影響」があることがわかった。人々の精神的な健康は、肉体的に活発だと明らかに向上する傾向にあった。

心の健康を得たいなら

3つめの研究は、運動が心の健康に影響を与える理由についてのヒントを示している。医学誌「ニューロサイエンス・アンド・バイオビヘイバラル・レビュー」に2月に掲載されたこの研究では、心的状況に影響を及ぼすと考えられる運動の最中や運動後に私たちの体の中で何が起きているのかという難解な問題を扱っている。

うつ病の人の運動前後の血液サンプルを調査した過去の20の研究を分析したところ、運動によってさまざまな炎症マーカーの値が著しく低下した一方で、脳の健康に寄与すると考えられるさまざまなホルモンや生化学物質のレベルが増加していた。

しかし研究者らは一方で、検証した研究の大半は規模が小さく、調査期間も短いため、運動がうつ状態を撃退する際、どのように脳に影響を与えるのか、確固たる結論を導き出すことはできないとしている。

それでもこれらの3つの研究を総合すると、運動は肉体的かつ精神的な健康を向上させる手段であることを確実に論証していると、研究論文の主要執筆者のひとりであるブラジルの運動科学者フェリペ・バレート・シューフは言う。

シューフによれば、うつ病の予防と治療のどちらにも役立つ理想的な運動の量や種類を結論づけるには、より多くの実験が必要だという。

しかし彼は、最近起きた出来事や日常生活に打ちのめされている人は誰でも、ランニングをしたり自転車に乗りに出かけたりすることを推奨している。彼らの研究で明らかになった最も重要な点は、「心の健康を向上させるには活動的になる必要がある」ということだと、シューフは言う。

(執筆:Gretchen Reynolds記者、翻訳:中丸碧)
 

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