女子ゴルフで「68罰打」課したルールの本質 ボールを「あるがままに」扱う意味とは何か

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上原はこの追加ルールを聞いてスタートしたが、彼女が主にプレーしている米女子ツアーでコースコンディションが悪い時のローカルルールでは「1クラブレングス(クラブ1本分の長さ)以内にプレースする(ボールを置く)」ことが多いという。元の場所から動かしてはいけないリプレースとの違いを分かってもらえるだろうか。

上原は、習慣的にこちらの方だと勘違いして、元の場所に置かなければならないボールを移動させてプレースしてしまった。第2ラウンドでもそのルールが適用されたため、スタート前に気が付いた上原は第1ラウンドでやってしまったことを申告した。

15ホールで計19回、間違った場所から打ったため、19回分×2罰打の38罰打と、15ホールでその罰打を加えていない少ないスコアを申告していたため、それに対しても2罰打ずつが課せられて30罰打、合計68罰打となった。ゴルフの「罰」は加算されることも多い。どこかの国の刑法のように罪が加算されて懲役1万年とかいうのと同じ感じだ。上原は「思い込みでした」とショックを受けていた。

選手が投げたボールがキャディーにぶつかり…

こんなこともあった。期待の若手、松森彩夏が18番グリーン上でボールをマークして拾い上げ、キャディーに投げたところ、キャディーが見ておらず、頭に当たって池にヘディングシュート。キャディーが胸までつかる池に入って探したが見つからず、新しいボールを使わざるを得なくなり、ゴルフ規則によって2罰打になった。

ボールは切れたり変形したりするなど特別な事情がない限り、1ホールは同じものでプレーしなければならない。この出来事も、筆者の記憶にない。どちらかというと、ボールを投げること自体、マナーに反する気がする。松森も投げた理由を説明できなかったので、習慣になっているのかもしれない。

規則にある「罰」も「救済」も、プロゴルファーにとっては「お金」に絡む問題。68罰打を加えて第1ラウンド141の上原は予選落ちして賞金ゼロ。罰打がなければ、第1ラウンド73、68罰打を受けた後の第2ラウンドは「応援に来てくれた人のために」と68で回ったので予選を通っていた。

松森は最終的に21位になったが、2罰打がなければ10位と賞金は80万円以上違う。「たら」「れば」の話で、罰打があったから頑張れたということかもしれないので比較はできないが、単純計算ではそうなる。悔いは残るだろう。

最古のゴルフ規則は18世紀半ばにスコットランドでつくられたものだとされる。遊びだったものが、おもしろくてやる人が増え、競技会をしようとなり、それなら共通のルールが必要だ、という流れなのだろう。13条(現在は3章規則34ほか付属規則)あるのだが、根底にあるのは「ボールはあるがままにプレーする」ということ。いい結果も悪い結果もそのまま受け入れなさいということだ。

今もベテランの選手ほど、むやみにボールに触らない。かつてはゴルフ場の整備もいまのようにはできていなかったので、ボールを動かせるローカルルールをあまり作っていなかったころのプレースタイルといえる。

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