「成功の指標はひとつだけ。それは株価、市場の評価です」−−スチュアート・チェンバース 日本板硝子次期社長
出原洋三会長にしたのと同じ質問をします。今回の社長人事を多くの日本人は、小が大をのんだと思っていたら、結局は大が小をのみ返した、と見ている。そうなんですか?
確かに私はピルキントン出身ですから、そういう見方をされるのも考えられることです。ただ、買収から2年経っておりまして、2006年6月の時点で私は日本板硝子の一役員になっています。自分は日本板硝子の人間として働いてきました。私自身としては、ピルキントン出身だとか、あるいは、そうじゃない、とか、そういう見方はしておりません。日本板硝子グループの人間だと考えています。
--マスメディアや関係者の一部は、そういう見方をしていません。いかにもピルキントンがのみ返した印象を持っている。それに対して、どういう感想を持ちますか。
大切なのは、2年前に統合する前の段階の日本板硝子は、ビジネスのエネルギーの注ぎ方が95%近くは日本向けの企業だったということです。その時点で日本板硝子は日本から外へ事業を広げていくことの大きな必要性を感じて、だからこそピルキントンの買収に踏み切ったわけです。ピルキントンは世界26カ国で事業を行っていて、たいへんグローバルな視点を持った企業です。この二つが一緒になって世界29カ国に工場を持つ巨大企業となり、今後もさらにグローバルなアプローチをする、そういう企業体になった。
新たな企業体には、運営にしても、グローバルな企業の経験、視点を持った人物が必要になります。なるべく多くの国でビジネスの経験があり、グローバルな人材をということで、取締役会が私を選び、今回の人事となったと理解しています。ですから私が英国人だからとか、ピルキントン出身だからということではなくて、私は日本板硝子の一員ですし、たまたま経験があった、ということで任命されました。
--出原会長は、日本的な経営の視点を新しい経営にも落とし込むと言っています。チェンバースさんは日本の経営の、どの部分を長所と見ていますか。
日本の企業文化としてたいへん長期的な視点を大切にする、ということがまずあると思います。英国、米国もそうですが上場企業はどちらかといえば短期的な視点で物事を見る傾向がある。どちらの企業文化にもよいところもあれば悪いところもあると思います。長期的な視野を大切にする、そういう文化の欠点としては、短期的な目標への重点の置き方が十分でなくなる可能性がある。私にとってたいへん幸運だったのは、日本人の役員がいるので、よいところを経営に生かしていけることです。
日本板硝子は世界中に工場がありますが、日本の工場、製造部門での品質に関する成績は、つねに他のどの国よりも優れておりトップです。それは日本の企業文化のすばらしさの表れだと思う。高品質へのこだわり、というのは、今後世界中の工場に広げていきたい。
--買収前のピルキントン時代と現在のチェンバースさんとでは、経営手法、経営に対する考え方として変化はありますか。
そんなに大きな差というものはありません。ビジネスには重要なステークホルダーがいますね。その中で、最も大切な三者は、顧客と従業員と株主です。ロンドン証券取引所、ニューヨーク証券取引所でも構いませんが、そこに上場している企業を例に取りますと、その企業のCEOや取締役会は50~60%を株主、残りを従業員と顧客に対してエネルギーを使っている。私の考えでは、すべてとは言いませんが、多くの日本の上場企業のエネルギーは70%ぐらいが顧客、20~25%ぐらいが従業員、残り5%が株主に向けられている。私としては3分の1ずつエネルギーを費やすのが理想です。長期的に見ますとビジネスで成功を収めるには、この三者のステークホルダーが、それぞれ重要です。
私としては今までのやり方を日本板硝子に持ち込みたいと思っていますが、その一方でさまざまな調整が必要だと考えています。英国、欧州、米国と日本とでは申し上げたようにステークホルダーの扱い方は、たいへんに大きな隔たりがあって、どちらが正しいというのではなく、中間ぐらいがいちばんよいのではないかと考えています。日本板硝子の取締役会、管理職の人たちには、今までよりも、利益率の改善について考えてもらいたいし、財務的なものにも、もっと関心を持つようにと私からは言いたい。反対に、私のほうは今まで以上に顧客を重視する日本の立場を学んでいきたい。長期的な戦略を立てるに当たっては、顧客の長期的戦略を知ることが需要だと思っています。