ヴォラプチュアス!
次の『三四郎』にも西洋の絵画が登場する。九州から上京して大学に入学した三四郎は美禰子に心を奪われ、彼女のあいまいな態度に翻弄される。三四郎が美禰子のイメージを重ねたのがフランスの画家グルーズの絵だった。
「グルーズは色っぽい少女の絵を専門に描きました。ロンドンの美術館に今もたくさん並んでいます。漱石もそれを見て感じるものがあったのでしょう。美禰子のキャラクターを作るときに思い出したのだと思います」と古田さんは語る。
2、3日前、三四郎は美学の教師からグルーズの画を見せてもらった。そのとき、美学の教師が、この人の描いた女の肖像は、ことごとくヴォラプチュアスな表情に富んでいると説明した。
ヴォラプチュアス!池の女のこの時の眼付を掲揚するには、これより外に言葉がない。そうして正しく官能に訴えている。けれども官能の骨を透して髄に徹する訴え方である。甘いものに堪え得る程度を超えて、烈しい刺激と変ずる訴え方である。甘いといわんよりは苦痛である。卑しく媚びるのとは無論違う。見られるものの方が是非媚びたくなるほどに残酷な眼付である。――『三四郎』より
「“官能に訴えているけど卑しく媚びるのとは違う”とは、どんな感じ?と思いますよね。実際に絵を見ると、漱石はこういう絵を見てこう書いたのかと、彼の頭の中を見る楽しさがあります」と古田さん。
トピックボードAD
有料会員限定記事
ライフの人気記事
無料会員登録はこちら
ログインはこちら