『草枕』に登場する、『鶴の図』
漱石は西洋の絵画だけではなく、子供の頃には家にあった日本の書画にも親しんでいた。『草枕』には、現在も人気の高い伊藤若冲の作品が登場する。
床にかかっている若冲の鶴の図が目につく。これは商売柄だけに、部屋に這入った時、既に逸品と認めた。若冲の図は大抵精緻な彩色ものが多いが、この鶴は世間に気兼ねなしの一筆がきで、一本足ですらりと立った上に、卵形の胴がふわっと乗っかっている様子は、甚だわが意を得て、飄逸の趣は、長い嘴のさきまで籠っている。――『草枕』より
「これも小説世界に具体的で視覚的なイメージを盛り込んでいます。漱石にとって若冲は気になる画家の一人でした。筆の赴くまま、水墨の勢いに任せて一気に描いている。若冲にはもっと派手な絵もありますが、漱石が好んだ若冲がここに集約されています」
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