名画で味わう!夏目漱石のうんちく 『坊ちゃん』『三四郎』に出てくる、名画たち

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三四郎と美禰子が見た「人魚」

お次もわざわざロンドンから借りてきた作品だ。ウォーターハウスという画家による人魚の絵である。

ジャン=バティスト・グルーズ『少女の頭部像』
18世紀後半 油彩・カンヴァス 
ヤマザキマザック美術館
「ちょっと御覧なさい」と美禰子が小さな声でいう。三四郎は及び腰になって、画帖の上へ顔を出した。美禰子の髪で香水の匂がする。
画はマーメイドの図である。裸体の女の濃しから下が魚になって、魚の胴が、ぐるりと腰を廻って、向う側に尾だけ出ている。女は長い髪を櫛で梳きながら、梳き余ったのを手に受けながら、こっちを向いている。背景は比類海である。
「人魚(マーメイド)」
「人魚(マーメイド)」
頭を摺り付けた二人は同じ事をささやいた。――『三四郎』より

「漱石は研究のために絵を見るというより、色っぽいとかカッコいいとか、普通の人の感覚で見ています。ただ、絵を見ることは誰でもできるけれど、そのイメージを小説の中に言葉で効果的に取り込むことは、そうはできません。そこが文豪たるゆえんです。そうとう細かいところまで具体的なイメージを持って書いていることがわかります」

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