テロから1年、バタクラン劇場再開までの苦悩 現地ルポ、フランスは何が変わったのか

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フランス語、英語を含め数カ国語で報道する24時間ニュースの報道局「フランス24」の英語版は、12日の夜にかけてパリ・テロに関する特集を複数放送。「フランス5」では市民、評論家、バタクラン劇場のこの1年をドキュメンタリーにした監督などをスタジオに招いてトークショーを放送していた。

フランス24の番組によると、バタクラン劇場や惨劇のあったレストランの近くに住む市民ジャン・ルック氏は、テロ後の6カ月、どこに行くのにも救急セットを持ち歩いていたという。「いつ、何が起きるのかわからない」。

ルック氏は、銃で撃たれて傷を負った人々を自宅前で助け続けた。その時の光景ははっきりと記憶にある。いつかは自分が撃たれるかもしれない。忘れようとしても忘れられない。ルック氏のように間接的に事件に関わった人を入れると、約3000人が、1年前のテロによってなんらかの影響を受けたとみられている。

現在も20人が入院している

ジョルジュ・サーリン氏は娘のローラさんをバタクラン劇場で殺害された。その悲しみを鎮めるために、サーリン氏は娘についての本を書いた。娘が亡くなったことが分かったのは、死から18時間後だったという。死に至るまでの状況を批判していたこともあったが「あまりにもつらいので、今は自分がこれからどう生きるかを考えるようにしている」。喪失感は消えていないが、悲しみを抱えながらも生きていかなければならないことを承知しているという。

テロから1年経ち、現在も20人が入院中。約600人が心理サポートを受けている。政府は犠牲者を支援するための基金を設置しており、現在までに利用申請をした人は2800人ほどにのぼる。

番組の最後には「フランス・テロの犠牲者の会」のステファン・ラコーム氏が登場する。「1周年記念のイベントは犠牲者や遺族にとって重要な日になるー全て解決されたとは言えなくても、だ」。

番組司会者は、13日に行われる犠牲者追悼イベントが果たしてよいことなのかどうかと問いかける。犠牲者・遺族にとって、政治家がスピーチをし、フランスが一つにまとまることによって悲しみが癒されるという考え方がある一方で、犠牲者や遺族、また衝撃を受けた国民全体にとっても思い出したくない惨状を思い出す機会にもなってしまうからだ。

ラコーム氏は「テロリスト、過激主義者たちに向けてメッセージを送る意味もあるのではないか」と答える。「テロに負けない」というメッセージだ。

13日の追悼イベントはパリ郊外にある多目的スタジアム「スタッド・ドゥ・フランス」前で始まる。昨年はこの日に試合会場の入り口付近と近隣の外食店で爆発音が数回発生し、自爆テロにより4人死亡、1人が巻き込まれて死亡した。

その後は市内繁華街で犠牲者が出た複数のレストラン前での同様のイベントを行い、最後はバタクラン劇場の前に向かう。亡くなった市民への献花と追悼の意を込めた黙祷、オランド大統領によるスピーチなどが予定されている。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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