法人税減税は投資を増やさない
法人課税は、企業の投資決定には中立的である。これは、経済学の基本的な命題の一つなのだが、一般には誤解が非常に多い。なぜ中立的なのかを、以下に説明しよう。
最初に、投資資金が借り入れによって調達される場合を考える。1単位の借り入れを行って、投資を1単位増やすとする。税引き前の投資収益率をrとし、法人税率をtとすると、税引き後の収益は(1-t)rだけ増加する。他方、借り入れ利子率をiとすると、利子支払いはiだけ増加する。ところが、法人税の計算上、借り入れの利払いは全額損金算入できるので、ネットでの支払い増は、(1-t)iだ。結局のところ、ネットの税引き後収益の増加は、(1-t)r-(1-t)iとなる。これが正である限り、投資が行われる。投資が増えるにしたがって、収益率rは低下する。投資が行われる限界は、r=iとなるときだ。この式に法人税率は現れない。したがって、法人税は投資決定に影響を与えない。
「法人税率が下がると投資が増える」という考えは、税引き後収益が減税によって増えることだけを見て、利払いや法人税額の変化を見落としたものだ。税率が△だけ下がると、確かに投資収益は△rだけ増加する。しかし、法人税は△iだけ増加してしまうのである。限界的にr=iとなるところで投資しているので、両者は相殺する。したがって、法人税減税の効果がなくなるのだ。
次に、内部資金を用いて投資を1単位増やすとしよう。税引き後収益は(1-t)r増加する。しかし前回述べたように、内部資金といえども資金コストがゼロではない。投資が正当化できるためには、内部資金を他の対象に投資した場合の税引き後収益(1-t)iより、税引き後投資収益が大きくなければならない。これがWACCの考えだ。均衡条件はr=iで、法人税は関係しない。
この場合、法人税率が下がると、投資の税引き後収益は増加するが、他方で、代替投資の税引き後収益も増加してしまう。そのために、投資決定に影響が及ばないのだ。
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