成長戦略では、2012年度で63兆円である民間企業設備投資を、年間70兆円にする旨が表明されている。63兆円のうち法人税負担企業によるものがその27.7%であると考えれば、17.5兆円だ。他方、必要とされる総増加額は、70─63=7兆円である。これを法人税負担企業だけで実現するには、投資が現在より40%増加しなければならない。いかに大規模な投資減税を行っても、こうした大幅な増加は、到底不可能だろう。
投資減税が投資に与える影響が限定的と考えられる第二の理由は、現在の日本では、税以外の要因が投資に与える影響が大きいことだ。
例えば自動車産業では、今後成長が見込まれるのは海外需要で、それに海外生産で対応する方針が既定路線だ。投資減税で生産活動の国内回帰が起きるとは思えない。また、鉄鋼産業や石油化学産業では、国内生産能力の削減が次々に決定されている。この決定が投資減税で変わるとは思えない。
前回紹介した法人企業統計の結果では、小規模企業の利益減少が顕著だ。それを反映して設備投資が大きく落ち込んでおり、これを減税で取り戻すのは難しい。大企業の利益は円安で増えたが、円安がどの程度継続するか、大きな不確実性がある。利益増は一時的と判断すれば、設備投資は増えないだろう。
いま一つの問題は、長期金利が上昇していることだ。これは、設備投資を抑制する(前回述べたように内部資金で行われる投資に対しても、金利上昇は抑制的効果を及ぼす)。
このように、いまの日本では、将来の利益、金利、海外生産の可能性のほうが、はるかに大きな影響を投資に与えている。
なお、ベンチャー企業は、創設後しばらくの期間は利益がないのが普通だ。したがって、法人税を支払っておらず、投資減税の効果も及ばない。減税の効果が及ぶのは、既存の企業である。「産業の新陳代謝を促す」という今回の成長戦略の目的から言えば、投資減税はむしろ逆効果と考えざるをえない。
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