LGBTへの無策は企業にとって大きな損? 1000人アンケートから見えたもの

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転職経験者が多い! その背景は…

次は、いよいよ「LGBTの職場体験」に関する質問です。分析してみて驚いたのは、転職経験者の多さでした。

<転職経験>

LGBT平均の転職経験率は60.0%であり、一般平均51.8%に比べて高いという結果がでました。これは以前から予想されていましたが、今回の調査で初めて数字の裏付けができたことになります。

さらに注目すべきはMTFの動向です。MTFの転職経験率は68.3%と、一般に比べて16ポイントも高いうえに、「3回以上転職している」と回答した人が全体の41.3%にも上りました。年代別でみると、30代MTFの実に81.3%が2回以上の転職を経験しているのです。

 こうしたデータの背景にはいったい何があるのでしょうか。トランスジェンダーの場合、性別を移行する過程で、手術のための長期休暇が必要になることがあります。また、性別の移行がある程度進んだ後は、自分の望む性別で働くために、以前の自分を知らない職場に転職する人もいます。

LGBTの転職は、もちろん、自分のキャリアなどを考えた前向きな理由もあると思いますが、「今の職場になじめない」といったネガティブな要因も相当影響しているのでは――そんな推測を裏付けるデータが、さらに続きます。

職場の人間関係の難しさ

<職場の人間関係>

職場の人間関係について尋ねたところ、「悪い」「非常に悪い」と回答したのはLGBT全体で8.7%でした。中でも、MTFでは20.6%と突出しています。自由記載欄を設けたところ、回答者の60.9%が職場における個人の体験を書いてくれました。

勤務先の会長が「今日からお前は女だ!」とみんなの前で言ってくれて、トイレや仮眠室など環境を整えてくれたのはうれしかった。(20代MTF)

このようなポジティブなコメントもありましたが、自由記載欄の半数以上は「LGBTとして職場で居心地が悪いと感じた」エピソードでした。

同性愛者であることを理由に、一緒に働けないと言われた。同性愛者であることを相談した上司が、別の部下に話してしまい、その人から暴言が書かれたメールが来た。(40代ゲイ)

カミングアウトした日からパワハラ・いじめを受けるようになった。(20代バイセクシュアル女性)

配置転換や昇進、退職などにかかわる重大なハラスメントや、職場の誰かに相談したことで、さらに困難な状況に追い込まれたケース(2次被害)もありました。

アンケートから見えてきた日本の職場のLGBTの実態について、次号でさらに深く堀り下げてみたいと思います。

柳沢 正和
やなぎさわ まさかず / Masakazu Yanagisawa

1977年東京都生まれ。慶応大学総合政策学部卒。ドイツ銀行グループ LGBT従業員グループdb Prideアジア代表

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