私が「ネット証券業界はおかしい」という理由 松井証券・松井道夫社長インタビュー

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

私はあるときから、そんな競争を繰り返している業界の状況がつまらないものだと考えるようになった。私はデイトレーダーの存在も役割も否定しない。しかし、業界はその争奪戦を激化させているうえ、メディアがその実態も把握せずに「個人投資家はすべてオンライン証券の顧客になった」というような報道もするようになるや、いよいよ、そんな気持ちを強くするようになった。

個人投資家の実数は、限られている 

各社ともに稼働口座数はおそらく、全体の10%から20%程度にすぎない。口座管理手数料がゼロであることもあって、一人の投資家が何社にも口座を開設しており、預かり資産がある口座数の累計値だけをみれば、2000万口座規模になっているが、個人投資家の実数は限られている。

昔も今も株式投資には元手がかかる。しかし、誰でも潤沢におカネがあるわけではないから、個人投資家の間では信用取引が行われてきた。なおかつ、投資にはリスクがあるがゆえにいろいろと時間を費やす。したがって、時間的にも資金的にも余裕がある高年齢層が株式投資の主流層になる。

この構図は今も何ら変わっていないにもかかわらず、「若い年齢層が株式投資をさかんに行なっている」とも報じられた。確かに、デイトレーダーには若い人たちの比率は高いが、それも程度の差にすぎないにもかかわらず、だ。

このように、現実とは異なることを報道されて、「これはおかしい」という思いが募っていた。私に限らず、古くからの証券業者であれば誰もが違和感を覚えたはずだ。ところが、新規参入者はそんなものだと思って騒いだ。そんな業界の状況が正しいわけではない。ほとほとおかしいと思っている。これが私の発言のホンネにある思いだ。

――年初に信用取引の規制緩和が実施されました。実施直後から、一日信用取引サービスを本格開始しています。その狙いは。

実は今回の信用取引規制緩和の前段階として、旧制度化においても信用取引のデイトレードを繰り返すことができる仕組みを考案し、当社は2011年10月に即時決済信用取引を開始していた。

わが国では第2次大戦前、株式取引の過半は差金決済による清算取引が占めていた。いわば、個別銘柄の先物取引のようなことが行われていたわけだ。当時の統計データによれば、日本のGDPは購買力平価基準で比較すると米国の5分の1にすぎなかったが、株式売買代金は均衡していた。日本は株式売買代金がGDPを上回っていたことになる。なぜ、そうなっていたのか。答えは簡単だ。日本は清算取引だったからだ。差金決済方式で、株式取引が大変な勢いで行われていた。

次ページ間違っていた業界のうわさ
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事