私が「ネット証券業界はおかしい」という理由 松井証券・松井道夫社長インタビュー

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1営業日2000億円超だって、無理じゃない

ところが、敗戦後、1949年の証券取引所再開の際、新しい制度として導入されたのは、差金決済を認めない米国の信用取引だった。以後、清算取引は一貫して認められなかったが、私はデイトレーダーにとって資金効率の向上は必要不可欠と判断し、差金決済ではない即時決済信用取引を取り入れた。

ところが、昨年、信用取引の規制緩和が決定し、即時決済信用取引の意味はなくなってしまった。そこで「これで松井証券は厳しくなる」という評判を立てられたが、それは完全に間違っていた。なぜならば、当社の即時決済信用取引の仕組みは、一日信用取引の仕組みに活用できたからだ。したがって、一日信用取引では、システム開発などすべての面で当社は先行することができた。

結果として、1月から始まった一日信用取引は当社のみの取扱いとなっている。現在、当社の一日信用取引売買代金は1営業日700億円を超えている。それに年間営業日数240日を乗じれば、売買代金は17兆円だ。しかし、17兆円で落ち着くのかといえば、そんなことはない。当社を利用しているデイトレーダーの数は全体のなかでほんの一部にすぎないからだ。そのうち、1営業日の取引高は1000億円を超えていくだろう。当社だけで2000億円、さらにはそれ以上の規模に拡大していってもおかしくない。年間売買代金100兆円も決して夢ではない。

「一日信用取引」は、松井の収益を圧迫しない

――今後、一日信用取引を収益面のコア事業化する考えですか。

いや、目下、そのつもりはない。なにしろ、手数料、金利はゼロに設定している。未来永劫にわたって主要事業としないまでは言わないが、それもこれも顧客の声次第だ。

開始間もなく、周囲からは「松井は一日信用取引のうち、オーバーナイトとなった取引で手数料を稼ぐことが狙いだ」といった噂が立った。しかし、そんなことは、はなから考えていなかった。そもそも、一日信用取引はデイトレードが前提だから、オーバーナイトはごくわずかにすぎない。だから、いっそのこと、その部分の手数料も思いきり引き下げた。他社は当社の動きには追随できず、一方で既存取引の手数料率がさらに下がり、収益力が低下し続けている。それが表面化しないのは売買代金が拡大しているからだ。

あえて繰り返すと、当社にとって一日信用取引は収益源ではないが、もともと当社におけるデイトレーダーの数は限られており、コストも問題となるようなレベルにはないので、これからも継続できる。他社は手数料、金利ゼロを導入すれば、さらに収益力が悪化し、導入しなければ当社にデイトレーダーを奪われるので、どちらにしても苦しい展開が続くだろう。競争の過程において、一日信用取引はデイトレードの究極的ツールとなっておかしくない。

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