長期金利上昇で、打ち消される経済活性効果

「期待が変われば、実体経済が変わる」は誤り

インフレ期待の上昇は名目金利が調整

しかし、インフレ期待が高まったところで、経済活動には何も望ましい影響は生じない。それについて説明しよう。

「予想インフレ率が高まると名目利子率が上昇する」という関係(フィッシャー方程式)は、期待と実体経済の関係を考えるにあたって重要だ。なぜなら、「期待が変われば実体経済が変わる」という主張が誤りであることを意味するからである。

「期待が実体経済を変える」という論拠としてしばしば言われるのは、つぎのことだ。デフレ下では、物価が将来安くなるから、現在買わずに将来買おうとする。したがって経済が停滞する。しかし、インフレ期待が高まれば、将来買うより現在買うほうが有利になるから、人々は現在の消費を増やし、消費支出が増えるというのである。

投資とは、現時点で資材を購入して生産設備を作り、将来時点の生産による売り上げで収益を得る活動だ。デフレ下では将来の生産物の価格が下がるから、投資の収益率が低くなり、投資活動が不活発になる。しかし、将来の価格が高くなれば、投資の収益率が上がる。だから投資が増えるというのである。

しかし、こうした主張は間違いだ。なぜなら、それはフィッシャー方程式による名目利子率の上昇を無視しているからである。

消費について言えば、現在買わずに貯蓄して将来買えば、利子分だけ多く支出できる。名目利子率が高まれば利子分が多くなるから、購入できる名目額は多くなる。これが物価上昇と釣り合って、購入できる量(実質消費額)は不変に留まる(経済学の用語で言えば、将来消費の割引現在価値は、インフレ率によらず一定である)。以上のことは、連載の第8回(1月12日号)ですでに述べた。ただし、きわめて重要なので、ここにもう一度繰り返したい。

投資についてもそうだ。インフレ率が高まると将来の売り上げの名目値は増加する。しかし、名目金利が上昇するので、それらは高い金利で割り引かれることとなり、現在値は変わらない。したがって、投資の収益性は不変なのだ。

結局、消費についても投資についても、期待インフレ率の上昇によって生じるとされる経済活性化効果は、金利の上昇によって打ち消され、現在支出と将来支出の配分に影響が及ばないのである。

名目金利が現在上昇しているのは、まさにそうした調整が現実の経済で起こり始めていることの証拠だ。インフレターゲット論が誤りであることが、証明されつつあるのである。それゆえ、金利の上昇は、「異次元金融緩和政策」の本質にかかわる重大な問題なのである。

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