日本銀行が公表した政策委員会議事録によると、4月26日の金融政策決定会合で、複数の委員が「異次元緩和」の本質的な矛盾を指摘した。
すなわち、(1)金利の押し下げにつながる大規模な国債の買い入れと、(2)金利押し上げにつながる物価上昇の目標は相反すると市場が受け止め、動揺した可能性があるとの指摘である。
これは、この連載で述べてきたことと同じである。日銀内部でも同じ議論が行われているのは、当然と言えば当然のことだ。
金利は上がるのか? 下がるのか? どちらのメッセージを信じるかで、国債を買うか売るかの判断は、まったく逆のものになってしまう。そして、誤った判断をした場合の損失は巨額だ。先日、ある年金ファンドの運用責任者の方から、「胃が痛くなりそうだ」という話を伺った。
日銀は、「金利がどうなるかはマーケットが決めること」とかわすことはできない。なぜなら、正反対の方向付けを明確に述べているからである。どちらの方向付けが実現するのかを、明確化する必要がある。そうでなければ、市場の混乱は続く。
これまでのような1%のインフレ目標であれば、「インフレ期待を1%引き上げ、一方で実質利子率を1%引き下げる。そして名目金利は不変に保つ。現実の金利は、さまざまな要因で変動するだろう」という説明を行うことは可能だった。しかし、インフレ期待を2%にしてしまうと、もはやこのような説明はできなくなる。実質利子率をゼロまで引き下げたにしても、名目金利は上昇すると言わざるを得なくなるからだ。2%という目標は、この意味で「高すぎる」のだ。
インフレターゲットは多くの国で採用されているが、通常は高すぎる現実のインフレ率を抑制するための目標値だ。インフレ率を高めようとすると、さまざまな問題が発生する。まず、どのようにしてインフレ率を上げるのか、その道筋がはっきりしない。問題はそれだけではない。本質的な問題が二つある。第一は、インフレターゲットを設定しても経済は活性化しないこと。第二は、それが有害であることだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら