日銀は一刻も早くインフレターゲットをやめよ 異次元緩和の矛盾で混乱が続くマーケット

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インフレターゲットがもたらす弊害

インフレターゲットが持つ第二の問題は、弊害があることである。

すでに述べたように、名目金利の上昇は、それが期待インフレ率の反映である限り、実体経済活動に影響を与えない。

しかし、次の場合、経済活動の抑制につながる可能性がある。

第一は、期待されたインフレ率上昇が、実際には生じなかった場合だ。この場合に何が起こるかを、前述のモデルで説明しよう。

インフレ期待が高まると、名目金利はr+π+⊿に上昇する。しかし、実際にはインフレ率は不変で、来期の物価は(1+π)p0のままだったとしよう。こうなると予測する人の行動はどう変わるだろうか?

この場合、現時点で1円貯蓄した場合に来期に購入できる実質値は、(1+r+π+⊿)/(1+π)p0となる。これを近似すると、(1+r+⊿)/p0となり、⊿が正であれば、前より大きくなる。つまり、いま支出せずに将来支出したほうが有利になる。このため、現在の消費が抑制される。名目金利が上昇するため、消費せずに貯蓄するほうが有利になるからだ。

投資についても同様である。将来の生産物価格は高くならず、比較すべき名目金利が上がるので、投資は抑制される。

多くの人は、2%というインフレ目標は達成できないと考えている。しかし、金利は現実に上昇している。したがって、ここで述べたような経済抑制効果が働く可能性が高い。

第二は、財政への効果だ。名目金利が上昇すると国債の利払いが増加し、財政の維持可能性に対する信頼がゆらぐ。そうすると、実質金利が上昇する危険がある。

このように、インフレターゲットは、百害あって一利ない。それはいまや、日銀のアキレス腱になりつつある。

過ちを改めるに遅すぎることはない。日銀は、一刻も早く、インフレターゲットを取り下げるべきだ。

週刊東洋経済2013年6月15日

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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