モンキー高校と侮蔑される教育困難校の実態 スマホを回収しなければ、授業は完全崩壊

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しかし、どれほど工夫した教材でも生徒たちを長い時間引き付けておくことはできない。授業の最中でも突然立ち歩く生徒はいるし、授業終了10分前頃になると、多くの生徒は明らかにそわそわしだし、ノートや筆記用具を片付け始める。教員の説明のわずかな間をキャッチして、「せんせー、もう終わりにしようよ~」とむずかりだす。

教師も終わりにしたい気持ちは同じなのだが、終わらせれば生徒が教室から出て騒ぎ出し、他の教室にも構わず入ってしまうので、チャイムが鳴る前に授業を終わらせることはできない。実は、他の教室でも同様の状況なのだが、結局、終了チャイムまで生徒と教師の我慢比べが行われる。

選択肢がなかった生徒たち

「教育困難校」という言葉を、あまり聞き慣れない方が多いのではないかと思う。このタイプの高校は「進路多様校」と言われることもあるが、最も知られている呼称は「底辺校」だろう。もちろん、これは、各地の予備校や塾が出した受験偏差値を基に作られる偏差値一覧の底辺部に位置する高校という意味でつけられたものだ。

しかし、この呼称が侮蔑的で、そこに通う生徒たちを大いに傷つける点、偏差値一覧の偏差値は必ずしもそれぞれの学校の実相を表すものではない点などから、筆者を含め多くの人は、最近は「底辺校」という呼称を意図的に使わないようにしている。

では、「教育困難校」とは、どのくらいの受験偏差値の学校を指すのだろうか。実は、この偏差値以下の高校が「教育困難校」という明確な基準はない。インターネット上では「底辺校」という呼称が使われて、偏差値39以下、38以下の高校がこれに該当するといった、ほとんど根拠のない記載が数多く存在する。

これに対し、筆者は偏差値40台前半以下の普通科の高校が「教育困難校」に該当すると考える。商業高校や工業高校等の専門高校は、受験偏差値は高くないところが多いが、そこでは専門的技術や資格の取得というわかりやすい目標があり、授業1つとっても、「教育困難校」とはまったく違う風景が広がる学校がほとんどである。

これらの「教育困難校」に通う生徒はどのくらい存在するのだろうか。細かい統計的分析を経たわけでないことをお断りしておくが、筆者は体験から、「教育困難校」に通う生徒は、同学年全生徒の約15~20%ではないかと推測している。

「教育困難校」の生徒たちは、周囲から「クズ高校」「モンキー高校」と軽蔑され、ただでさえ低い自己肯定観を高校3年間で、完膚なきまでに傷つけられてしまう。将来の夢も狭められ、ほとんどの生徒は貧困層予備軍として社会に出ることになる。在校中の中退率も高く、消息がわからない卒業生も少なくない。せっかく正社員で就職できても、社会人として必要なさまざまな能力が身についていないので、短期間に辞めてしまう例も多い。

だが、忘れてならないことは、彼らは家庭環境や、学校の教育環境、さらには周囲に気付かれなかった病気や障害などの理由で「教育困難校」に入るしかなかったという点だ。そんな彼らをこのまま打ち捨てておいてよいのか。それは、そこに通う生徒にとっても、日本社会にとっても大きなマイナスにならないか。そこを考える出発点として、「教育困難校」の実態について、今後、多方面から述べていきたいと思う。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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