選挙の不平等は「一票の格差」だけではない
過剰に代表される地域、過少に代表される地域

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自治体のまとまりは国会議員選びに必要か?

司法が定数不均衡の是正を求めるのは、国民の形式的・実質的平等、両方の実現という意味で非常に重要だが、その実現は簡単ではない。

根本俊男氏と堀田敬介氏の一連の研究では、

 ①県境を維持しつつ
 ②一部の例外を除いて市の分割を禁止
 ③飛び地を作らない

 という条件のもと、「一票の格差」が2倍を下回るよう現在の300議席を各選挙区に配分することは困難であると示されている。

つまり、現在の自治体の区域を前提とし、近接した複数の自治体をまとめるだけの選挙区割では、有権者数最大と最小の選挙区に注目した「一票の格差」是正すらままならないのだ。

実際、今回の区割り審の勧告でも、人口の多い市を中心に、市の分割は不可避であるとされ、少なからぬ地域で反発が起きた。だが、ここからさらに選挙制度全体での定数不均衡の是正を進めていくとすれば、より多くの自治体で分割が必要となる。

国会議員は地元が国会に送り出す代表である、という感覚は根強い。その選挙に勝つために、地元の市長や地方議員が一丸になっている現実があるとすれば、分割は政治的な単位としての市の統合を危うくしてしまう。

しかし、国会議員は本来、自治体を超え、「国民」が選ぶものだ。それが、自治体の区域に縛られる必然性はない。実際、小選挙区制を採る多くの国が、自治体の区域にこだわらず、選挙区を設定している。

自治体の区域と異なる区割りになれば、国会議員を通じた自治体単位の補助金獲得のような局面での困難は生まれるだろう。だが、地元の代表を通じた利益の獲得や国会議員の利益誘導は批判にさらされ、すでに縮小している。

市域にこだわらず区割りを見直すことは、国会議員は国政の問題に、地方議員は地方政治へと、より特化していくきっかけとなるのかもしれない。
 

【初出:2013.4.27-5.4「週刊東洋経済(死んでたまるか!日本の電機)」

 

(担当者通信欄)

「一票の格差」は「定数不均衡」に比べて、理解しやすい指標です。ただ、わかりやすい指標に改善がみられたからといって、それだけで根本的な解決ができるわけではないという点に注意しつつ、選挙に関わるさまざまな動きを見ていきたいと思います。ちなみに、『変貌する日本政治 90年代以後「変革の時代」を読みとく』(2009年、勁草書房)には、菅原琢先生の「自民党政治自壊の構造と過程」はもちろん、本連載著者砂原先生の「もうひとつの政界再編」ほか豪華執筆陣の論考が並びます。記事と併せてぜひお読みください。書評はこちらです→「変転した日本政治20年にさまざまな問いかけ 評者:野中尚人

砂原庸介先生の「政治は嫌いと言う前に」最新回は2013年5月27日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、日本株大作戦)」に掲載です!

【ネット選挙だけではない、日本の危うい「選挙管理」】

AKB総選挙に盛り上がる今日この頃ですが、国政選挙がいよいよ迫ってきています。
この春の公職選挙法改正により、インターネットを用いた選挙運動、いわゆるネット選挙が解禁されることとなりました。選挙に影響を与えうる要素には、さまざまなものがありますが、記事ではネット選挙のほか、投票権を得るための「架空転入」(や、AKB総選挙について)も取り上げます。厳格なルールを遵守し、滞りなく選挙当日を迎えるために行われているのが「選挙管理」。韓国の制度とも比較しながら、日本の選挙管理を考えます!

 

大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)。 橋下改革の最前線にある大阪市立大学から、地方自治の専門家として国家と対峙する大都市「大阪」の来歴と今後を議論します

 

砂原 庸介 政治学者

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すなはら ようすけ / Yosuke Sunahara

1978年7月生まれ。2001年東京大学教養学部卒業、東京大学大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻にて2003年修士課程終了、2006年博士後期課程単位取得退学。2009年同大学院より、博士(学術)。財務省・財務総合政策研究所の研究員、大阪市立大学などを経て、2013年より大阪大学 准教授。専攻は行政学、地方自治。地方政府、政党の専門家として、社会科学の立場から学術研究に注力する。傍ら、在阪の政治学者として、地方分権や大阪の地方政治について、一般への発信にも取り組む。著書に、『大阪―大都市は国家を超えるか(中公新書)』(中央公論新社、2012年)、『地方政府の民主主義―財政資源の制約と地方政府の政策選択』(有斐閣、2011年。2012年日本公共政策学会 日本公共政策学会賞〔奨励賞〕受賞)、共著に『「政治主導」の教訓:政権交代は何をもたらしたのか』(勁草書房、2012年)、『変貌する日本政治―90年代以後「変革の時代」を読みとく』(勁草書房、2009年)など。
⇒【Webサイト】【ブログ sunaharayの日記】【Twitter(@sunaharay)

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