むしろ逆ではないですか? 元来、百貨店というある意味「極めて居心地の良い買い物スペース」に、ディスカウントストアと同様のコンセプトの商品やサービスを持ち込んで、いわば元来の「お得意様」、本当に気持ちがいい、と思って買い物をしている上得意様を遠ざけて、挙句の果てはインバウンドとか称して多くの中国人観光客を導きいれたために、そういう「お得意様」百貨店にますます行きたくなくなった・・・というのが現実ではないでしょうか。
私が大学を卒業して入社した1983年、丸紅で教わったことはお歳暮などでお客様に何かをお持ちするときには「必ず三越の包み紙のものを」ということでした。別に丸紅は三越と何の資本関係もありませんが、その包み紙のものを持っていくことで「大事なお取引先なんですよ」、という気持ちを伝えることができたわけです。
それが、いつの間にかコンビニでせんべいを買っても三越の包み紙のものが買えるようになってしまった。もうこうなると、「三越もコンビニとおんなじだろ」、ということになり、一度棄損したブランド価値は二度ともとに戻らない。
百貨店の経営者は百貨店という存在が、あらゆる生活シーンの中でのとびきりの「ブランド」であるという本来の価値を忘れてしまったのです・・・というと、経営規模を守るためには仕方なかった、という議論が必ず出てきますが、企業としては経営規模を縮小してでも守らねばならないブランド価値があったと、ワタクシは思います。
それを追求せず、安易な「たたき売り」競争を繰り返した挙句の果てが今の百貨店業界のありようにつながっている、と言っても過言ではないでしょう。自分が元来持っている一番競争力のある部分以外で勝負をしてしまったら、負けるのは当然です。そしてそれを一番評価していたお得意様が嫌がるようなことばかりしていれば、肝心のコアな顧客が離れていくわけですから業績不振になるのは当然なのです。
日本は「ロングテール時代」に適応できるか
どうも日本経済を見ていると、こういう問題が散見されるような気がします。「一度間違った方向に拡大した戦線を早急に縮小できない」とでも言えましょうか。シャープ、パナソニック、東芝などの問題を見ていてもある位意味での「最適化」、「選択と集中」が全くずれた方向に作用しているにもかかわらず、経営陣が過去の失敗を認めたくないばかりに、それを繰り返している気がしてなりません。最近良く使うのですが、これではまさにガダルカナル、ミッドウェー海戦の再現になっています。
時代は変わり、まさにロングテール。
需要は多岐にわたり、これまでの大量生産商品を、広告宣伝費をぶちまけて売るだけではもはや商品は売れる時代ではありません。ロングテールの高付加価値商品を欲しがっている消費者の需要がつかめず、いつまでたっても高度成長期のようなことを夢見てコスト削減ばかりに走っている経営者は即刻退陣すべき、という時代が既に来ているわけです。
同じことをやっていれば百貨店だけではなく、家電量販店も、スーパーマーケットもコンビニも同じ道を歩むことになります。今必要なのは「最大公約数」の顧客ではなく、どんな状況でもそのブランドを愛してくれるという「ミニマム」の顧客だということを忘れてはいけません。これを肝に銘じない限り、日本経済、分けても地方経済の発展はあり得ないでしょう。
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