「ル・モンド」は世界をどう報じてきたのか 仏紙が伝える「日本の新聞には載らない真実」

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──イスラムについても、日本の新聞はリアルに物を見てないと。

シャルリー・エブド事件のときは敬虔な信仰を傷つけられる側にも思いを致そうと、まるでけんか両成敗かのような識者の意見が朝日新聞に載りましたが、では表現の自由はどうなるのか。

25年前、イランの最高指導者から作者に死刑宣告が下された小説『悪魔の詩』を日本語訳した日本人学者が、首をかき切られて殺害される事件が起きました。事件は迷宮入りですが、その殺し方はまさにイスラムの戒律にのっとったハラルです。これも自業自得ということなのか。日本でもイスラムによると思われるテロ事件が25年前に起こっているのに、まるで対岸の火事のようにイスラム教徒の心情も思えと。それがトレランス(寛容)なんでしょうか。

無条件に認めることが寛容ではない

『「ル・モンド」から世界を読む 2001-2016」(書影をクリックすると、Amazonのサイトにジャンプします)

イスラムというのはものすごく問題を抱えています。昨年、欧米のイスラムに関する風刺画を転載した書籍の出版に対し、在日パキスタン人が抗議デモを行い、多くの書店が販売自粛に追い込まれたと報道されました。それでは同じパキスタン人であるマララ・ユスフザイさんが女子教育の権利を求めて銃撃された事件を彼らはどう考えているか、記者は尋ねなかったのか。サウジアラビアでは女性がどんな生活を強いられているか、なぜ報道しないのか。

それぞれの信仰なんだから無条件に認めようというのがトレランス(寛容さ)なんかじゃない。そんなことを私は朝日新聞に何度も投書してはボツになっているんですが。ただ、上っ面のヒューマニズムだけで論ずるのはやめていただきたい。

──先月9月号からコラムが再開されて、天皇の生前退位の問題を取り上げています。

8月8日の天皇の意向表明を受けてのル・モンドの社説を取り上げました。“退位”という言葉は使われなかったが、十分に明確かつ説得力のある表明だったとしたうえで、平和への深い愛着と、戦争中に日本が近隣諸国に与えた苦しみに対する痛惜を繰り返し表明してきた天皇の、もう一つのメッセージが含まれている、と書いています。

皇室典範改正の議論を始めれば非常に手間がかかる。そうすると安倍首相にははるかに重要な憲法改正が後回しになる。天皇には政治的発言の権利はないが、憲法改正を遅らせることも阻止することもできることを示した、と。ル・モンドはル・モンドの見解として、天皇が託した真意を読み取っているんですよ。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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