「ル・モンド」は世界をどう報じてきたのか 仏紙が伝える「日本の新聞には載らない真実」

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加藤 晴久(かとう はるひさ)/1935年生まれ。東京大学仏文科卒業後、同大学院修士課程修了。61~64年フランス国立高等師範学校留学。69年東大助教授、90年教授、96年恵泉女学園大学教授。日本フランス語教育学会会長ほか歴任、訳書・著書多数。フランス共和国芸術文芸勲章シュバリエ、研究教育功労勲章オフィシエ受章(撮影:今井康一)

──突っ込みが甘い?

たとえば2015年2月、世界第2位の銀行である英HSBCのスイス子会社のスキャンダル報道のとき。ル・モンドが内部文書を入手し、非営利団体ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)と協力して10万件の秘密口座の名義人を暴露、米英など海外では大騒ぎになった。その中には4億1990万ドルの日本人の口座も含まれていて、某著名建築家の名も明かされました。ところがICIJと提携している朝日新聞は、これに関して一言も触れていない。

パナマ文書騒動のときも、スキャンダル自体については触れているけど、どれも海外紙の2次情報を伝える程度。暴露された日本企業の名前は挙げても、企業側の弁明をそのまま無批判に載せるだけ。表現も「脱税」ではなく「節税」「租税回避」ですよね。個人は匿名だし。ル・モンドは連日数ページを費やして政治家やその縁者、経済人の脱税行為を詳細に報道していましたよ。

宮崎駿のロングインタビューも

──2013年に、米国家安全保障局(NSA)による世界的規模での盗聴が表面化したときもたしか……。

同じです。ル・モンドは「スパイ国家とたたかう」と社長署名の社説を掲げ、5ページにわたってその活動実態を暴露しました。日本は相変わらず海外の報道を間接的に伝えただけ。メルケル独首相もオランド仏大統領もオバマ大統領に厳重に抗議した。独仏首脳が盗聴されていて日本の首相が盗聴されていないわけがないのに、なぜそれを日本のメディアは追及しないのかと。

──「世界」という紙名だけあって、国際面が充実していますね。

アフリカ諸国の政情や貧困問題、一方で無限に秘めた発展の可能性、厳然と続く旧宗主国の権益とそこに食い込もうとする中国、韓国、インドの猛攻など、詳細にリポートしています。去年6月には、閉鎖的な絶対君主国家、サウジアラビアでの反体制知識人ネットワークの果敢な戦いを紹介し、それに対する弾圧を社説で鋭く批判している。

2013年に長編映画制作からの引退を表明したアニメ映画監督の宮崎駿氏にはロングインタビューを行っていて、1920~30年代日本の軍国主義や金融危機の影響など、「当時と今の状況は恐ろしいほど共通点がある。新たな破局が訪れる条件が少しずつそろいつつあるかのよう」と危ぶむ言葉を引き出した。時代の地底に潜む兆しを感じ取り大河的作品によって啓示する才能、として現代のヴィクトル・ユゴーになぞらえています。

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