朝井リョウさん、就活って「何者」ですか? 直木賞作家が描く、就活のリアルと本質

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――当時はすでに作家としてデビューしていました。それでもなぜ、企業への就職を考えたのでしょうか。

企業への就職を考えた、というよりも、3年生の12月(編集部注:当時は12月が採用広報解禁だった)になったから就職活動をします、というように、就職活動をしないことを考えていなかったです。作家になるという夢が予想外に早く叶っただけで、自分の普通の生活は普通に続いていく、という感覚でした。当時僕の周囲にいた出版社の人たちも、家族も、とにかく全員、僕が普通に就職すると思っていましたよ。むしろ勘違いして作家一本でやっていくなんて思ってないよね、と釘を刺されていました。

今が様々な事情があって専業ですが、今の生活のほうがとても不思議な感じです。留学先にずっといる気分というか。

就活対策は「実際に足を運ぶ」こと

監督は演劇ユニット「ポツドール」を主宰する三浦大輔。演劇界の出身者らしい演出手法も作品の魅力のひとつ ©2016映画「何者」製作委員会 ©2012 朝井リョウ/新潮社

――就活対策としては、どんなことをしましたか。

効果があった実感があるのは、やはり実際に足を運ぶことでしょうか。

――足を運ぶというのは企業訪問やOB訪問といったものなのでしょうか。

いえ。たとえば店舗がある企業だったら、実際に店舗に行って売り場にいる客層をチェックしたり、商品を売るメーカーだったらその隣に並べられている他社製品との違いを見たり、ということをしていました。

これは会社員になってから感じたことですが、たとえば商品のパッケージデザイン案がA、Bと2つあるとします。でもそのデザインを決める宣伝部なり営業部なりの担当者って、色彩デザインとか人間の心理学とかを学んでいるわけじゃないですよね。そうなると、大抵、その迷った2つのデザインを自分の家族の誰かに見せるんです。たとえばその担当者の奥さんが「B案の方がいい」と言ったとします。すると、その話が会社では「B案の方が女性ウケが良い」という大きな主語に変わっていたりするんですよ。担当者の奥さんが良いと言っただけなのに、「女性受けがいいのがB案」ということになる。

大きい会社であればあるほど、小さな1人の意見を大事にする傾向があるんですよね。だから、たとえば面接で「新商品の売り場を2店舗見てきました。想像より若い女性客が多かったのが意外でした」と言うだけで、何かしら意見のある学生だ、という印象がつくと思うんです。会社って、意外と、名前もわからないような誰かによる「若い女性が多かった」みたいな意見を鵜呑みにしたりするんですよ。当時は、面接で話をするために売り場を訪問していましたが、その売り場の感想が、今思えば会社の人にとっては新鮮だったのかなと。

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