インターの教育で私が感謝しているのは、娘がハイスクールのとき、課題図書が出され、そのエッセイを毎回提出させられたことだ。これは、歴史の時間でなく、国語(日本語)の時間だったが、娘の日本人としてアイデンティ形成に大いに役立ったと思う。
そのときの国語の担任教師はチエ・スコギンズ先生で、夫のグレン・スコギンズ氏が歴史の担当教師だったので、本の選定は的確だった。
以下、それを記すと、『天平の甍』(井上靖)、『沈黙』(遠藤周作)、『三四郎』(夏目漱石)、『清兵衛と瓢箪』(志賀直哉)、『「甘え」の構造』(土居健郎著)、『タテ社会の人間関係』(中根千枝)などだ。
私が娘に勧めた本
この連載を始めたとき、私の事務所の女性社長(33歳)に、「こういった本、読んだことがある?」と聞き、「1冊も読んでません」と素直に答えられ、がっくりしたことがある。彼女は、平均的な日本女性なので、おそらく、今の若い人たちも、これらの本をあまり読んでないと思う。
実は私も、このうちの『沈黙』『「甘え」の構造』は読んでいなかった。また、『タテ社会の人間関係』は高校時代に読んだが、内容は頭に入らなかった。そこで、娘と一緒に読んでみて、初めて「ああ、こんな内容だったのか」とあらためて納得した。この本には、日本社会で社会人として生きてみて、初めて実感することが端的に書かれている。
この本でいうタテ社会は、まさしく日本そのものである。「あなたの職業は?」と聞かれて、会社名を答えることを疑問に思わなければ、タテ社会の生粋の日本人である。そして、タテ社会人間は、「ウチ」と「ソト」の区別にこだわる。日本人は「個人」としての自分よりも、「ウチ=家、所属集団」を重視するなど、その本質が述べられている。
娘も私と同じく、当時は実感しなかったというが、大学院を終えて帰国し、日本の会社に就職した後は、タテ社会を実感した。そして、その中の暗黙のルールを犯さないで生きる術を身に付けたようだ。
上記の本以外に、私なりに選んで、当時の娘にそれとなく読むように勧めた本がある。それを記すと、『代表的日本人』(内村鑑三)、『武士道』(新渡戸稲造)、『菊と刀』(ルース・ベネディクト)、『アメリカの鏡・日本』(ヘレン・ミアーズ)、『日本人とユダヤ人』(イザヤ・ベンダサン)、『敗戦を抱きしめて』(ジョン・ダワ―)、『蒼茫』(石川達三)、『天の夕顔』(中河与一)、『忍ぶ川』(三浦哲郎)、『チャーズ』(遠藤誉)などだ。
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