砂上の「丸の内神話」−−オフィスバブル徹底検証

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小


 人材派遣会社だけが特別なわけではない。丸の内・大手町地区における最大テナントである国内大手銀行など金融機関の間でも、移転の動きがある。

みずほ、三菱UFJのようなメガバンクグループは、本社ビル以外にも多くのオフィスビルにテナントとして入居している。しかも、過去数年の大量採用により、賃借するオフィスは広がる一方だ。図表を見ればわかるように、複数のビルに分散している銀行、証券が多い。
 

ある大手銀行幹部は次のように明かす。「昔は新入社員を支店に送ったが、最近は東京本部へ配属することが多い。大量採用した新入社員であっても共用部分を合わせ1人3坪使っていると考えれば、今の賃料水準は間尺に合わない。新本社建設を待たず、大手町に残る部門と、外へ出す部門に整理していきたい」。

丸ごと移転する事例も出ている。3月、りそなグループは本社機能を江東区木場へ移転することを発表した。移転先はフジクラが再開発を進める10年3月竣工予定の「深川ギャザリア」ウエスト2棟。同年4月から夏ごろにかけて移転する計画だ。

一部のメーカーにとっても、丸の内のオフィスは敷居が高くなっている。昨年8月、日立製作所と三菱電機の合弁半導体メーカーであるルネサステクノロジは、本社を引っ越した。同社は03年4月の設立以来、丸ビルの最上階に本社オフィスを構え、応接室から皇居を見渡すその眺望は、まさに絶景だった。

しかし、赤字決算が続く厳しい企業にしては、いかにもぜいたく。引っ越し先は従来からルネサスの拠点の一つだった大手町の日本ビル。最新鋭のビルから古びたビルへの”都落ち”だが、これで相当の経費削減が図れたことは想像に難くない。

親会社の一つである日立製作所にも本社移転のプレッシャーが襲いかかるかもしれない。日立は分散していた本社の集約と効率化を狙い、04年に本社機能をお茶の水から丸の内に移転した。現在、日本生命丸の内ビル、丸の内センタービル、新大手町ビルに入居し、メーカーとしては丸の内・大手町地区における最大規模のテナントだ。ところが、その後の同社は苦しい決算を続け、08年3月期は581億円の連結最終赤字。賃料高騰が続けば、真剣に脱出を考える必要が出てくるだろう。

高額の賃料覚悟で新規流入、増床も

もちろん、去る者があっても新しいテナントが次々に集まれば、強気の賃料水準を維持することはできる。実際、グラントウキョウサウスタワーの21~22階には、千葉市幕張に本社を置いていたBMWジャパンが移転。銀座に本拠を置いてきたリクルートも、同ビル23~41階に移るなど、大規模な流入があった。

既存テナントの増床もある。たとえばパシフィックセンチュリープレイス丸の内では、マネックス証券やGCAサヴィアンなどが増床をしている。国際ビル、明治生命館にオフィスを構えるソフトバンク系のネット企業、ITメディアも増床した。今後の事業拡大や人員増を見越して明治生命館を増床、「向こう3年分の場所を確保した」(大槻利樹社長)という。「三菱地所のインキュベーションプログラムにより通常の賃料より安い水準だったのが、上場で通常の料金に変更となった」(コーポレート・コミュニケーション室)ことと、この増床により、賃借料は08年3月期の約1・5億円から倍増する見通しだが「取材に飛び回る記者の利便性、モチベーションを勘案すると現在の拠点から離れる考えはない」(同)という。

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事