日本企業の「残業好き」が崩壊する意外な理由 気鋭の経済学者が読み解く「ライフ・シフト」

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――介護離職ですか?

そうです。企業の主戦力とされてきた男性正社員が、親の介護のために、長時間労働ができなくなっていく。場合によっては、会社を辞めざるをえない。そういう状況が間近に迫っています。そうなったときに、企業はどんな手を打つか。対応を迫られます。

この層の働き方が変わるようになれば、日本企業、ひいては日本経済全体が大きく変わる一大転機となるでしょう。これは、見方によっては大きなチャンスとも言えます。

残業を減らすインセンティブ設計

――社員のワークとライフのバランスを考える必要があると。

安田 洋祐(やすだ ようすけ)/経済学者。大阪大学大学院経済学研究科准教授。2002 年東京大学経済学部卒業。2007 年プリンストン大学よりPh.D. 取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論。主な研究テーマは、現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン

ワーク・ライフ・バランスは、これまでは主に女性活用という視点からの議論が中心でした。それに対応した制度は、企業の側でも実はかなり整備してきていると思います。ところが、多くの職場において実態はまだあまり変わっていない。

子育て支援などは、ベンチャー企業のほうが進んでいる面もあります。組織が若いのでフットワークが軽いし、経営者自身も若く、自ら子育てを経験中というステージの人も多い。だからそういう制度に理解があるし、トップの理解があることを社員もわかっている。

ですので、いざトップが子育て支援を制度として導入すると、社員がきちんとその意図をくみ取って制度を活用しやすい。「組織が変わる」という空気が生まれやすいのですね。

一方で大企業はどうか。少しステレオタイプかもしれませんが、大企業の経営陣は人生を仕事に捧げてきた人、特に男性のシニア層がほとんどではないでしょうか。長時間労働を当然、あるいは必要悪と思っているところがある。

こうして長時間労働が前提になっていると、子育て支援などの制度は導入されにくい。あるいは、制度自体はあったとしてもほとんど活用されない。こういった問題が起こりやすいのです。

なぜかと言うと、みんなが長時間労働をしているときに、自分だけ早く帰り続けていると昇進しにくくなる、あるいは職場の居心地が悪くなってしまう。つまり、せっかく制度が導入されても、自分だけがその制度を活用すると割りを食ってしまう、ということをみんなわかっている。そういう空気があると、制度は形骸化してしまうのです。

――なるほど。では、どうすればいいのでしょうか。

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