日本企業の「残業好き」が崩壊する意外な理由 気鋭の経済学者が読み解く「ライフ・シフト」

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――本書のなかにも、「ありうる自己像」という概念が登場します。卒業後すぐに就職したりするのでなく、将来とりうる可能性を広げておくことを推奨しています。

たとえば、子どもへの定番の質問として、「将来なりたい職業はなんですか」というものがありますね。野球選手とか、消防士とか、どれかひとつだけを挙げてもらうのがいまは一般的です。ですが、将来なりたい職業を複数回答して、長い人生の中で、ひとつだけでなくいくつかを実現するのが当たり前、という時代が来るかもしれません。

あれもやりたい、これもやりたい、という子どもの好奇心をつぶして、「適性」にあわせてどれかひとつに絞り込んで集中させるようなことをせず、「あれができたから、次はこれをしようか」と、バランス良く一歩ずつステップアップさせていくことが、今まで以上に大事になってきます。今や身近となったインターネットは、そうした学びの機会もひらいてくれる強力なツールだと思います。

新しい働き方・生き方のフロンティア

100年ライフへの適応は、日本を変える大きなチャンスになると思います。本書は、そうした新しい時代のベンチマークとなる本です。

日本は、長寿化への対応ということでは世界のフロンティアにいます。世界に先駆けて長寿化が進む日本が、それにうまく適応する働き方、生き方のモデルを示せれば、世界にとっての模範になるでしょう。それで企業が変わり、人々がより自己実現できるようになり、経済成長にも資するということになれば、すばらしいですね。

経済成長に対しては否定的な意見を述べる方も多いですが、私は経済成長は必要だと思っています。成長を否定する人は、「成長から分配へと視点を変えよ」とよくおっしゃるのですが、現実には、成長がない中で平等を高めるような分配を実現するのはとても難しい。

成長がない状態というのは、ざっくり言うと、多くの人にとって自分の取り分が減っていく状態です。本人や家族の稼ぎが減っていく中で、さらに自分たちの取り分を減らして他の誰かへ分け与えることができるのか。政治的にそういった分配が簡単に実現できるのか。この困難を避けるためにも、できる範囲で経済成長は目指すべきだと思います。

(写真:今井 康一)

東洋経済新報社 出版局
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