日本企業の「残業好き」が崩壊する意外な理由 気鋭の経済学者が読み解く「ライフ・シフト」
そこで、経済学的に言えば、インセンティブ設計が重要になってくる。ワーク・ライフバランス社代表の小室淑恵さんがおっしゃっていたのですが、ある会社でパフォーマンスの評価軸を、従来の成果量(=アウトプット)から、時間当たりの成果(=効率性)に変えたところ、長時間労働が大幅に減って、なんと成果も上がったらしいのです。基準が変わることによって、無駄な長時間労働を削ろうとする強いインセンティブが各社員や部署に生じるわけですね。
さらに、事前には予想していなかった嬉しい誤算として、以前はお互いに把握していなかった労働状況、つまり誰がどのくらいの時間、どんな仕事をしているのか、という情報の集約や見える化も、部署の中で自然と進んでいったらしいです。
似たようなアイデアとして、各部署にたとえば月50時間というような「残業枠」を与えて、それを現場で、仕事の優先順位に応じて各人に割り振るようにしても、効率化が図れるかもしれません。重要なのは、適切なインセンティブ設計に基づいて仕組みを変えれば、組織が生まれ変わる可能性が十分にある、という点です。
トップのコミットメントで変える
――それはインパクトがありますね。
こういうダイナミックな動きを取り入れていかないと、会社の生き残りも難しいでしょう。国際比較によって明らかにされている労働生産性の低さは、日本企業の長年の課題でした。男性正社員の働き方、生き方を変えることは、この課題を克服する大きなチャンスです。介護離職や100年ライフへの適応は、大きな変化のきっかけになりえます。
さきほど述べたように、たくさん働く、ということから、いかに効率的に働くか、に評価軸を変えると、生産性は大きく改善されると思います。加えて、そういう大胆なインセンティブ設計は、トップのコミットメントを伝えるというメッセージにもなります。
――トップのコミットメントとは、どういう意味でしょうか?
制度を変更したので個人がそれぞれ判断を変えてください、というだけでは、状況を変えるのが難しい場合も多いということです。たとえば長時間労働といじめには同じ構図がある。なくなればいいとみんな思っているけれど、自分だけが「止めよう」と手を挙げたら、昇進できなかったり、今度は自分がいじめられたり、といった被害を受けることになる。そんな不利益があるとすれば、誰も積極的に手を挙げようとしないでしょう。
だから、自分一人だけでなく、みんなもきっと手を挙げるに違いない、全員がガラっと行動を変えるはずだ、という期待を生み出さなければなりません。そのために、こう変えるんだ、目的地はここにあるんだ、という強い意思を、トップがはっきり示すことが大事です。個人が一人ひとりの判断で変わっていく、というボトムアップの積み重ねだけで全体が変わるのなら、もうとっくにそうなっているでしょう。
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