日本企業の「残業好き」が崩壊する意外な理由 気鋭の経済学者が読み解く「ライフ・シフト」

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逆に言うと、現実がそうなっていないということは、一見すると非合理に見える長時間労働が、ひとつの安定的な「均衡」状態になっているから、と考えられます。

別の均衡に移るには、長時間労働を(結果として)肯定してしまっている全体の雰囲気を、トップのコミットメントで打破することと、個人がそういう空気から逸脱するためのインセンティブを与えることが欠かせません。

マルチ・ステージ化は非正規社員、主婦への恩恵

――長時間労働は当たり前、と思っている人には恐ろしい話ですね。

ここまでの話を聞いて恐ろしいと思うのは、3ステージモデルを前提に働いている一部の人だけではないでしょうか。安定した3ステージを思い描ける層というのは、現在はかなり少なくなってきたように感じます。

正社員としてひとつの会社で長く働く、という生き方をしていない人が増えている現在、マルチ・ステージの生き方を推奨する本書は、恐ろしいというより、ポジティブなメッセージを発するものだと思います。

非正規で働いている方、あるいは、出産や子育てで離職した後、もう一度働きたいと思っている方は、今のような体制は変わってほしいでしょう。非正規社員が正社員になったり、子育てで離職した人が職場復帰したり、という道はまだまだ狭いですから。

いったん正社員のパスからはずれると、はずれたままそのポジションが固定化してしまう。これは本人にとってはもちろん、社会全体にとってもよくないことです。

たとえば、半年ほど前に1カ月間滞在したシドニーでは、同一労働・同一賃金が日本よりも遥かに進んでいて、組織が変わっても同じような待遇や賃金が期待できるようでした。しかも最低時給が2000円くらいなので、給料自体が高いですし、育児休暇や時短勤務なども簡単に取得できる。すると、稼ぎたいときに稼げるし、生活への不安も少なくなります。マルチ・ステージの人生を実現するには、こういう社会環境が理想的でしょうね。

――イノベーションで寿命は延びた一方、イノベーション(AI、機械化)が仕事を奪うという点については、どうお考えでしょうか。

必ずしも、「奪う」ということだけではないと思います。テクノロジーの進歩で稼げる仕事が変わっていき、人がそれに適応せざるをえないとなったときには、そうした移行をサポートするテクノロジーも登場するでしょう。たとえば、新たな仕事に必要なスキルをAIから教わる、といった未来がすぐそこまで来ているかもしれませんよ。

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