デフレ長期化は企業の技術革新を阻害する 「物価」の専門家、東大・渡辺努教授が分析

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デフレマインドが染み付き、企業はなかなか強気の価格がつけられない?(撮影:大澤誠)
日本銀行は異次元緩和の導入から3年半が経過したにもかかわらず、2%の物価上昇率という目標を達成できていないことを受けて、政策の「総括的検証」を行った結果を9月21日に発表した。引き続き2%の目標を堅持する姿勢を示したが、今も達成の見通しが立っていないことに変わりはない。近編著の『慢性デフレ 真因の解明』(日本経済新聞出版社刊)で物価低迷の原因をさまざまな角度から分析している、東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授に物価低迷の原因と日銀の金融政策の課題について尋ねた。

 

――9月21日に日本銀行は異次元金融緩和の総括検証の結果を公表しました。今回の検証をどう評価しますか。

日銀は今年1月にマイナス金利政策を導入していた。このときから方向として見えていたのは、(金融緩和の手法を)量から金利へスイッチするということ。今回それがはっきりした。

私自身は(大量の国債を日銀が購入して資金を供給するという)量の拡大でできることは限られていると思っている。量の拡大を進めると、いずれ購入する国債がなくなるうえ、財政への規律が弱まってしまう。(異次元緩和がスタートしてからの)この3年半でわかったのは、量が物価へ及ぼす影響力が限られているということ。それを前提にすると、金利にスイッチするのはよい選択肢だと思う。

2つの政策に矛盾が生じる恐れがある

――9月の政策決定会合で日銀は、オーバーシュート型コミットメントと長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)という2つの新しい政策を導入しました。

オーバーシュート型コミットメントにより、景気がよくなっても(政策金利である)翌日物コール金利をしばらく低い水準に据え置くことで、将来の物価を上げていくことを約束した。今までも同じような約束をしていたが、それをより明確にした。

もう一つは、10年国債金利について、今回とりあえず0%というターゲットを設定し、そこに誘導していく、とした。これは金利絡みの大きな意思決定だ。

しかし、この2つの政策はバランスがうまくとれていない。オーバーシュート型コミットメントだけで、短期から中長期までの金利に対して十分影響を及ぼすことができる。このようにして決まった金利に対し、長短金利操作は10年物国債の金利だけ特別扱いをする。オーバーシュート型コミットメントは短期から中長期まですべての金利を下げることを意図しているが、決定会合直前にマイナス幅の大きかった10年国債金利は、長短金利操作によってむしろ0%に上げていくことになる。2つの政策が重複することで矛盾が生じる余地がある。

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