デフレ長期化は企業の技術革新を阻害する 「物価」の専門家、東大・渡辺努教授が分析

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

――先生が指摘されている「ノルム」(社会的規範)ですね。

そうだ。ノルムというのは、いろんな社会、経済上の慣習を指している。たとえば、地下鉄のエスカレーターで東京の人は急ぎの人が右側を歩くが、関西では逆。賃金についてもノルムがあり、賃金はこのくらい上がるという相場観がその時代ごとにある。

1970年代であれば、賃金は10%、20%毎年上がるのが相場だった。10%を基準にして、よい企業はたとえば12%、業績の悪い企業は8%にするなど、10%を基準にした物の考え方がある。かつての日本は健全なノルムがあったと思うが、デフレが20年間続く中で「物価は上がるものじゃない」「賃金もそれに合わせて上げるものではない」という風に、ノルムは徐々に変わっていった。

政府は「賃金の引き上げ」で協力できる

――ノルムがデフレをもたらしているとすると、金融政策で打ち破るのは難しそうですね。

異次元緩和が始まったときは、何とかノルムが変わるんじゃないかと思っていた。安倍政権が強くバックアップしていたし、何とかデフレを治癒しないといけないという意味でのリフレ派が政権の中枢に入ったことが大きかった。そういう人々がやれば、エスカレーターの左側を歩いていた人々が右側を歩くようになると私は思っていた。マーケットの人々も一瞬そう思った時期があったと思う。

しかし、結果的にわかったことは、2年はもちろん、3年半やってきてもなかなか変えられないことだ。私は今でももう少し上手に金融政策を運営すれば何とかなると思っている。金融政策だけで物価目標は達成できないという感覚にも違和感がある。どういうことかというと、モノの値段は基本的には中央銀行が出している銀行券の値段の裏返しでもある。自らが出している商品の値段について変えられないことはありえない。それが経済学者的な認識だ。

――いわば中央銀行の価格支配力を取り戻すということですね。

そこがないことが問題なのだが、そうはいっても3年半やってきて難しいな、と。政府サイドの力を借りるしかないと思い始めている。一つの方法は最低賃金で、毎年一定率でこれを引き上げていくことは非常に有効だ。もう一つ政府が協力できるのは公務員の給与。公務員の給与が上がっていけば、日銀や政府のいっている物価や賃金を上げるという話はウソじゃないと皆さんが思い始め、民間企業も賃金を上げようか、という話になっていくと思う。そうやってノルムを崩していくことは可能だ。 

山田 徹也 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事