デフレ長期化は企業の技術革新を阻害する 「物価」の専門家、東大・渡辺努教授が分析
もう一つ重要なことは、あまり指摘されていないが、デフレが長く続くことで企業が価格を支配する力のようなものが落ちているのではないか。価格支配力とは、独占企業が好き勝手な価格をつけるという意味ではなく、ほかの企業とは差別化された商品を出し、価格もその商品の価値に見合うように設定できるということだ。
たとえば、多くの企業は巨額の研究開発コストをかけて商品を開発し、いろいろな技術革新を行なっている。その分、商品の値段を上げることでかかったコストを回収したいと考えているが、日本企業はその意味での価格支配力が落ちてしまっている。
その理由としては、ライバルとの値引き競争が長く続いたので、怖くて値上げできないことが一つ。より根底には、消費者がかなり価格に対してセンシティブなので、思い切った高い価格を設定できない。
そういうことを繰り返していくと、結局のところ、多くの企業がまじめにR&D(研究開発)を行って、その分のコストを回収するという健全経営を忘れてしまう。とにかく何でもいいから安い値段の商品を出して消費者に受け入れてもらうのが一番だということになってしまう。
しかも、そういうことがゆっくりと進んできたので、国民もあまり意識していない。その意味で2%というちゃんとしたインフレの状況にもう一度戻して、多くの企業が技術革新にしっかり取り組めるようにする。価格支配力を健全な形のものに戻すことが重要だ。
「物価も賃金も上がらない」というノルムの定着
――日本企業は過当競争を行っているのでしょうか。
そうだと思う。企業の数が多すぎる。典型的には電機業界がそうだと指摘されてきた。流通もそう。経済産業省もその点は認識していて、デフレを回避していくには、そういう産業構造の改革も必要だと考えている。
――いわゆる「ゾンビ企業」が生き残り、日本経済の足を引っ張っているという議論もあります。
生き残っているゾンビ企業はおそらく技術力がなく、安値で勝負するしかない。すると、立派な企業もゾンビ企業と同じような土俵で勝負するしかなくなってしまう。もちろん、そういう産業構造の根は深く、急に直せないことに起因していると思うし、何より1990年代からデフレが続いていることが大きい。
いま韓国経済がデフレの入り口にあると言われている。韓国中央銀行に何度か呼ばれて思うのは、入り口にいるのならデフレマインドに染まっていないので、中央銀行が思いきった手を打てば抜けられると思う。しかし、日本のように20年もデフレが続くと、企業経営者や消費者の頭にデフレの重みがすり込まれてしまっている。
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