では、日本の新卒採用や就職活動のあり方に問題がないかというと、そんなことはない。たとえば、就職活動期の学生が学校に来られず、授業が成り立たないという現実がある。
かつてに比べると多くの学生は就職活動に膨大な労力をかけざるを得なくなった。そのため、新卒一括採用という仕組みが学業を圧迫していると、誤解されてしまっているが、問題は新卒一括採用という仕組み自体ではない。1990年代後半から普及した「就職ナビ」がその問題を引き起こしているのだ。
「就職ナビ」が応募殺到を加速した
就職ナビがまだ普及していない時代、企業はどのように新卒採用の募集をしていたかというと、主には紙の就職情報誌と大学の求人票であった。大手企業の多くは、ターゲットとなる大学に向けた就職情報誌にのみ情報を掲載し、専用の資料請求ハガキをつけていた。
仮に全大学を対象にした就職情報誌に情報を掲載しても、専用の資料請求ハガキはつけなかった。求人票も特定の大学にのみ送っていた。指定校制をとる企業もあり、それ以外の学校の学生を門前払いするケースもあった。また、大手企業が全学生を対象にする合同企業説明会に参加するようなことはほぼなく、せいぜい求人票を送っている採用対象大学の学内説明会に出る程度だった。
つまり、大手企業の多くは採用対象の大学を中心とした採用広報を行っており、すべての大学の学生の目に触れる機会は少なかった。自分の大学を採用対象と見ていない大手企業に応募したい場合、専用の資料請求ハガキでなく、普通の郵便ハガキで資料請求をしていたりした。ただ、そうした学生はごく少数だったが、「見どころがある」と応対する採用担当者もいたのである。
そうした状況の中で就職ナビが出現した。就職ナビは、すべての学生に対し、すべての企業が門戸を開くように作られていった。その時のキーワードは「オープン&フェア」。インターネット上で学校差別をすることが明らかになるとの悪評が広がると、企業側が危惧したこともあるが、新しいインターネットという場で、学校差別のない採用や就職の場を作ろうという、極めて真っ当な志のもとに草創期の就職ナビは作られていたのである。そして大手企業を含むすべての企業が全学生からのエントリーを受け付けるようになった。
それで起こった現象は何か。一部の大手人気企業へのエントリーの集中だ。
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