円安は経済成長を阻む「悪いインフレ」を招く
これは日本の成長にとってはマイナスである。家計の資産あるいは輸入企業の利益から中東の王族や中国の工場主へと資金が流れるからだ。
インフレ期待をもたらすことから、日本にとっても悪いことではない、と言う人もいるかもしれない。が、これは経済学的にはナンセンスだ。インフレには「よいインフレ」と「悪いインフレ」があり、後者は経済成長に悪影響をもたらす。より少ない量を獲得するのにより多くを支払うのは悪いインフレである。
原油といえば、多くの人は日本の貿易赤字が定着しているのは福島第一原子力発電所事故の影響で、日本が鉱物資源をより多く輸入するようになったからだと考えているかもしれない。が、原子力は日本の電力の30%を供給しているにすぎず、日本の総エネルギー消費の10%程度である。日本の原油やLNG(液化天然ガス)など鉱物資源の輸入量は、2011年2月~13年2月までわずか6%しか増えていない。
一方、同時期に円の価格は28%上昇した。10年に日本の鉱物性燃料輸入額はGDPの3.6%程度だったが、12年にはこれが5.1%に拡大。そして、今日の為替水準では、たとえドル価格上昇や輸入量の増加がなかったとしても、6.5%に膨らむ。もしドル価格そして(あるいは)数量が増えれば、輸入額はさらに拡大し、戦後最高水準となる。これが家計の資産と企業の利益に与えるダメージは極めて大きい。
こうした代償がメリットによって相殺されればよいが、そのメリットはまだ表れていない。多くのエコノミストによれば、円安が実質輸出量を押し上げるには少なくとも1年を要するとされ、その影響がどの程度かについては諸説ある。
その間、日本の実質輸出量は減少し続けた。13年1~3月期の日本から世界への輸出量は前年同期比10%の水準まで下がり、07年後半の景気後退前のピークから比較するとなんと30%も低迷している。
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