少なくともこれまでのところ、輸出の面においては、輸出先で価格を引き下げることで市場シェアを獲得することではなく、輸出先でドルやユーロなどの価格を据え置き、多くの円を獲得することで円安を活用している。自動車、テレビ、機械類1台当たりの利益は押し上げられたが、必ずしも販売量が増えたからではない。3月時点で円は日本の主要な貿易相手国の通貨に対し、昨年9月比18%安かった。輸出業者はこれを利用して円の受け取りを16%増やしたが、実質輸出量はほとんど増えなかった。
メーカーの雇用増に結び付くのか
自動車業界を見ると、日本メーカーは今でも世界のトップを争っている。自動車メーカーは、この円安を外国での価格引き下げか多くの円を獲得するのに利用することができた。
たとえば、円が1ドル=78円から98円に下落したとすると、トヨタ自動車は輸出自動車の価格を2万4000ドルから、たとえば1万9000ドルに引き下げることができる。これで、円ベースでほぼ同額(約18万7000円)を獲得でき、より多くの自動車を販売できる。あるいは現地価格は2万4000ドルのままで1台当たり23万5000円を円ベースで得ることもできる。昨年9月から2月にかけて、自動車メーカーは後者を選んだ。円での自動車価格は15%上昇し、輸出で得られた金額は12%増えたが、実質的な数量は2.4%減少した。
これは、自動車メーカーに投資しているヘッジファンドにとってはすばらしい話だったのかもしれないが、これが、メーカーの雇用増や新たな設備増強にどれだけ結び付くのだろうか。
これまでのところ、日本企業の主要輸出事業者の価格戦略が意味しているところは、経済全体の成長をもたらす乗数効果が存在しないことである。おそらくこの効果は年末までには表れるだろうが、円安メリットの大きさはまだ不透明である。
(撮影:尾形文繁)(週刊東洋経済2013年5月11日)
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