しかし、ここまで国有企業が力を増したきっかけは、2008年9月のリーマンショックです。その直前までは民間企業や外資系への就職や起業もかなり人気がありましたが、経済が悪化して風向きが急に変わってしまいました。雇用を安定させて、国の力を強くしようという狙いで国有企業を強化する流れになったのです。2008年を境に国有企業職員の平均給与は民間企業のそれよりも急速に高まっており、公開資料によると現在では63%も高いそうです。
国有企業がどんどん力をつけてきて、国有企業のトップ150社の合計営業利益が、すべての民間企業の合計営業利益よりも多いという、おかしな状態になってきました。2003年に国資委が設立された時、多くの国有企業が給料の支払いも滞りがちであったことを考えると、とても大きな変化です。
大富豪のほとんどは、「体制内」の不動産王
中国の政治家には10億米ドル(980億円、1ドル=98円換算)以上の資産を持っている人が83人いる、という調査結果があります。ちなみに、資本主義の総本山であるアメリカの参議院の中で、これほど資産を持っている議員は一人もいません。また、アメリカの「フォーチュン」誌が発表する富豪リスト500人のうち、122人が今は中国人で、日本人はたったの22人です。そのほとんどが「体制内」の特権のひとつである不動産がらみでお金持ちになった人です。同誌の発表する上位企業500社の中にも、中国企業が70社ランクインしてきていますが、そのうち民営企業はたったの6社です。
今でも体制外で活躍するする帰国子女は多くいますが、「国進民退」という大きなトレンドにより、以前に比べるとその活躍の場が狭まっているように思います。
もちろん、体制外で活躍している優秀な人も多くいます。中国のネット業界大手のテンセントに転職したマッキンゼーの同僚に聞くと、国有企業からのオファーもあったけれど、業界最先端をいくテンセントを選んだと言います。待遇もすばらしく、絶対額で評価しても日本の金融機関をしのぐ高い水準です。会社における事業機会や自由度を考えると、外資系が第1志望と考える人も少なくありません。国有企業はまだまだグローバル化が進んでいないので、グローバルで活躍する機会を考えて、あえて外資系企業を選択した友人も多くいます。
しかし、中国の民間企業で、「いい就職先ね」と友達や親戚に言われるのは、HUAWEIやレノボなど数えるほどしかありません。それなら「国有企業のチャイナモバイルのほうが断然いい」と思われています。民間企業は国有企業に入れない人が入るという感覚がそうとう強くなっています。マッキンゼーの採用担当者に聞くと、「10年前までは北京大学のとびきり優秀な学生が採れた。最近はトップ1%ぐらいのヤツは採れるけれども、いちばんいいヤツは採れない」と言います。
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