中国の大学生はこの大きなトレンドを敏感に感じ取っており、北京大学や清華大学をはじめとするトップ校の学生の多くは、公務員になるか、国有企業に入っていきます。
私のマッキンゼー時代の後輩は、北京大学からマッキンゼーに入った完全に「体制外」の人間で、その後、外資系に入るための就活支援のベンチャー企業を立ち上げました。ところが、北京大学の学生にあまり人気がないそうです。みんな、公務員試験対策や国有企業に入るための対策のほうに興味がある。外資系につきもののエクセルやパワポのスキルより、国有企業ではお酒の席でどういうふうに飲むべきかといったことを聞きたがり、どんどん「内向き」になっているようです。
会計学や財政学などの国家重点学科を設置する財経大学の卒業生も、以前は中国における会計事務所の「ビック4」に就職する人が多かったのですが、会計事務所と国営銀行の月収の差がだんだん少なくなってきたので、最近では国営銀行に就職する人が増えてきました。ビック4の初任給は約6000元(9万円、1元=15円換算)で、これは過去3、4年、あまり変化していません。一方、国有企業の給料は徐々にずっと上がっていきます。
今年、財経大学を卒業し、国有企業の建設銀行に就職した人がこう話していました。「5年前だったら、ビック4のオファーをもらっていたら、絶対に行っていた。友達も全員そうだった。でも、最近は半々ぐらいになってきている。ビック4で長時間働かされてもおカネは大してもらえない。それなら国有企業でのんびり楽しくやろうぜ、という人が増えている」。
帰国子女の活用が、経済活性化につながる
このように、新卒市場は移りがちな直近の世相に流される傾向にあります。国有企業の統廃合が相次いだ朱鎔基首相の在任期間は、外資系企業が全盛期で、いちばん優秀な新卒は体制の外に出たがっていたかもしれませんが、今では体制内礼賛に傾いています。その新卒市場で二分論にして固定的な労働市場を作ってしまうことは、社会全体にとっても人材の最適配置につながらず、利益にならないのではないでしょうか。
リーマンショック後の中国政府による景気刺激策の効果が薄れるに伴い、中国経済は構造的な停滞に突入しようとしています。中国のさらなる経済成長と成長モデル転換を実現するためには、「体制内の労働市場」と「体制外の労働市場」の壁を崩し、両者の人材交流を盛んにすることが求められるのではないでしょうか。
「体制内」だけで人材が流動していても、イノベーションは起こせません。海外や体制外ですでに活躍している帰国子女を体制内に取り込むことで、プラトーに直面している中国経済が活性化される大きな可能性があると思います。それにもかかわらず、労働市場が分断されていることは非常にもったいないと感じます。前回ご紹介した90後もそうですが、帰国子女組にどのような機会を提供するかが、経済成長モデル転換のひとつのカギになるかも知れません。
(構成:上田真緒)
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