当然ながら、国有企業の男性は女性にとって結婚相手としてモテます。上海の市中心部に人民公園という、大きな公園があり、その一角にお見合い広場のようなところがあります。そこには本人ではなく親たちが大勢集まり、子どもの結婚相手を探しています。大きな紙に自分の子どもの“釣書”を書いて掲げているのです。
男性の親はだいたい息子の「年齢」「年収」「社名」「学歴」「家を持っているか」「車を持っているか」を書いています。とてもわかりやすいですね。その紙を持って、娘を持つ親たちと交換します。一番人気は「社名」が国有企業であること。親も子も、安定していることの価値が相対的に上がってきています。最近、上海で行われた調査では、公務員が女性にとって最も結婚したい相手の職業であるという結果が出ました。
しかも、国有企業はアップサイド(給料が上がる余地)があって、最近はMBAにもどんどん派遣してもらえます。それなら自分で留学する必要もなく、一攫千金を狙って起業する必要もありません。リスクを取ることの相対的価値がどんどん下がっています。規制当局との関係も密なので、担当する仕事のスケールも大きく、やりがいのある仕事ができるという評判もよく聞きます。
「体制内」に入る方法
また、体制内に入ることで、戸籍が格段にもらいやすくなります。中国で戸籍の問題は非常に大きい。たとえば、私は青島の戸籍で、上海に住んでいても、上海人と同じレベルの医療や教育の福利厚生を受けられません。結婚して子どもが生まれたら、奥さんも子どもも受けられません。受けられたとしても、相当な格差がある。いわば国の中に国があって、戸籍はパスポートのような感覚です。
戸籍がなければ実質、“異国”で暮らしていけません。しかし、国有企業に入ると戸籍を発行してもらえます。これも福利厚生の一部です。「国有企業に就職すれば、あなたは上海人になれますよ。奥さんも子どもも上海人になれますよ」という誘惑が大きいのです。体制外の企業にも戸籍の枠がありますが、国有企業と比較にならないほど少ないです。
では、「体制内」にどうしたら入れるのか。大学で共産党員になり、卒業後に官僚になるか、政治家になるか、国有企業に入るか、その周辺の関連企業に入るか――という道から選択することになります。
公務員は日本の国家1種ほど難しくはないものの、試験を受けなければなりません。しかし、国有企業は筆記と面接ぐらい。エリートではなくても、そこそこ優秀な大学を出て、政治的に問題がない人物であれば入れます。つまり、頑張って公務員試験を受けると、「超安定的な公務員」になれて、そこそこ優秀なら「もう少しアップサイド(給料が上がる余地)のある国有企業」に入れる。
問題は、優秀な帰国子女に両方とも選択肢がないことです。中国から海外に留学する人は毎年40万人います。農村部の人はビザがほとんど取れないので、留学しているのは北京や上海など1級都市の学生で、おそらく人口の1割を超えているでしょう。ところが、留学から帰ってきてから国有企業に入るのは難しく、自動的に「体制外」の人間になってしまいます。
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