選挙制度改革"0増5減"より大きな対立 混合制度の意図せぬ効果、いいとこ取りの難しさ

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選挙制度の歪みを取り除くため、議論を重ねたドイツ

最終的に連邦議会はこの期限に間に合わせることはできなかったが、2011年6月までに主要政党が選挙制度の改革案を提出し、同年9月22日には新しい議席配分方式が決められた。ただし、この決定には野党の合意はなく、連立政権の賛成による可決であった。

この大要は、併用制を維持しつつ
(1)まず598の議席を各州での「投票数」に基づいて16州に配分する
(2)各州では比例票に基づいて各政党に議席を配分し、そこで生じた超過議席の存在は認める

というもので、比例票による議席の配分方式が、従来の「政党→各州」から「各州→政党」へと変更された。各政党への議席配分が、定数(598)からではなく、各州に割り当てられた議席数から行われるために、大政党にとって有利となるという試算も発表されていた。

 この方式の下で2013年に予定される連邦議会選挙が行われるかと思いきや、2012年7月25日に連邦憲法裁判所はこの方式でも「負の投票価値」の解決が不十分であるとして違憲判決を下した。

それを受け、連邦議会は改めて選挙制度を審議し、ある政党で超過議席が出現した場合は、それに応じて他党の議席を比例的に増やす、「調整議席」を導入するという新制度に、与野党で合意した。

制度は複雑なものとなったが、要するに、得票に応じた比例的な議席配分を「超過」する、政党ごとの議席数の割合を崩すような議席は作らず、議員数を定数よりも拡張して配分し直すことで、選挙制度の歪みを取り除こうとしたのである。

もちろん、この方式の下では、超過議席の出現に応じて、これまでより多くの議席増が必要になる。しかし、それでも「負の投票価値」の問題の是正が優先されたと言えるだろう。

日本と同様に、ドイツでも司法が選挙における投票価値の不平等を問題視し、立法府に是正を求めたことが選挙制度改革の原動力となっている。注目すべきは、単なる数合わせの議論ではなく、混合制度の特徴を意識し、制度改革の詳細なシミュレーションを踏まえた議論が行われている点だろう。選挙制度の違憲性を実際の選挙なしで審議する憲法裁判所の存在など、制度の違いは少なくないが、選挙制度の考え方、改革の進め方など、参考にできる点は多い。

なお、この部分の執筆に当たっては、山口和人(2012)「ドイツの選挙制度改革―小選挙区比例代表併用制のゆくえ―」『レファレンス』737号河島太朗・渡辺富久子(2012)「2011 年改正後の連邦選挙法に対する違憲判決」『外国の立法』253-1号河島太朗・渡辺富久子(2013)「連邦選挙法の第 22 次改正」『外国の立法』255-1号 といった国立国会図書館の優れた資料を参考にした。国立国会図書館は、各国の選挙制度の最新情報を素早くフォローしているので、ご関心のある方は ぜひご参照いただきたい。

(担当者通信欄)

異なるものの組み合わせ、ただでさえ複雑な「混合制度」をさらに改革することが、いかに難しいかが窺えます。4ページ目の図を見ると、混合制度を採っている国はそれほど多くありません。また混合制度の組み合わせ方は同じではないため、他国の例をそのまま参照するのは難しいところですが、ドイツの制度(この記事では最新の解説つき!)のような、他国で採用されている異なる選挙制度と比べてみると、日本の選挙制度のメリットデメリットがより鮮明になってきます。

こちらの記事→【統治の根幹をどう作る?選挙改革の"選択肢"】からは、混合制度の元である、小選挙区制(多数制)と比例代表制が、それぞれ異なる型の民主主義に結びつくものであることがわかります。ぜひあわせて読んでみてください。

砂原庸介先生の「政治は嫌いと言う前に」最新回は2013年4月22日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、死んでたまるか!日本の電機)」に掲載です!
【「一票の格差」とその是正、問題はどこにあるのか】
選挙区ごとに異なる、議員一人を選出する有権者数。その最大値と最小値の比率が「一票の格差」です。それを小さくすることだけでは、解決できない問題とは何か?それをどう考えるべきか?

大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)。 橋下改革の最前線にある大阪市立大学から、地方自治の専門家として国家と対峙する大都市「大阪」の来歴と今後を議論します
砂原 庸介 政治学者

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すなはら ようすけ / Yosuke Sunahara

1978年7月生まれ。2001年東京大学教養学部卒業、東京大学大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻にて2003年修士課程終了、2006年博士後期課程単位取得退学。2009年同大学院より、博士(学術)。財務省・財務総合政策研究所の研究員、大阪市立大学などを経て、2013年より大阪大学 准教授。専攻は行政学、地方自治。地方政府、政党の専門家として、社会科学の立場から学術研究に注力する。傍ら、在阪の政治学者として、地方分権や大阪の地方政治について、一般への発信にも取り組む。著書に、『大阪―大都市は国家を超えるか(中公新書)』(中央公論新社、2012年)、『地方政府の民主主義―財政資源の制約と地方政府の政策選択』(有斐閣、2011年。2012年日本公共政策学会 日本公共政策学会賞〔奨励賞〕受賞)、共著に『「政治主導」の教訓:政権交代は何をもたらしたのか』(勁草書房、2012年)、『変貌する日本政治―90年代以後「変革の時代」を読みとく』(勁草書房、2009年)など。
⇒【Webサイト】【ブログ sunaharayの日記】【Twitter(@sunaharay)

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