黒田新総裁が誕生して最初の4月の金融政策決定会合で、日本銀行は「量的・質的金融緩和」に踏み切った。2年間で日本銀行が供給する通貨量(マネタリーベース)を2倍にするという大胆な緩和政策だ。だが、これで日本経済をデフレから脱出させることができるかどうかは、必ずしも経済学者やエコノミストの意見が一致しているわけではない。
筆者は、こうした政策が生み出す副作用に強い懸念を持っているが、徹底的にやればインフレを引き起こすことは可能だと思っている。
マネーストックは増えたが、名目GDPは横ばい
意見が対立し議論が錯綜する背景には、デフレや金融政策という言葉に対する理解の違いもある。例えば「デフレ」という言葉は、経済学者は物価の下落という意味で使っているが、一般には経済不振と結びつけてとらえられている。日本経済の不振を解消することには誰も反対しないが、必ずしも物価が上がって欲しいとは思っていない。また、後で述べるように、どこまで金融政策の範疇と考えるかという意見の相違があり、そこに議論が混乱する原因があると考えられる。
さて、必ずしも安定的だとは言えないものの、長期的には名目GDPとマネーストックとの間に関係があることは誰もが認めることだ。しかし、現在の日本でマネタリーベースを多少拡大してもマネーストックが大きく増えることは難しいだろう。
そもそも伸び率は低下したとはいうもののバブル崩壊後もマネーストックは増加を続けたが、名目GDPはほぼ横ばいなのだから(左図)、マネーストックを増やす政策に即効性があるかどうかは疑問だ。
しかし極端な話をすれば、マネーストックがバブル崩壊直後の10倍になっていたとすれば、物価は相当上がっていたはずだ。マネタリーベースをどんどん拡大していけば、いずれマネーストックも増加し、どこかで物価上昇が実現するはずだ。
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