石破茂氏、「寄らば大樹という言葉は嫌いだ」 本当のことを言わなければ政治家ではない

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有馬:参議院選挙から「18歳選挙権」が開始されたことがきっかけとなって、改めて「政治とは?」「日本の今後の針路はどうすべきか」ということを考えた国民も少なくなかったと思います。

一方で、今の安倍政権には、選挙に勝って国会で多数を得れば、「国民の白紙委任を得た」と勘違いして、議論も説明もほとんどしないままそそくさと決める。そうした、首をかしげざるを得ないような運営も垣間見えます。憲法や安全保障の問題は機会を改めてまた詳しく伺いますが、石破さんなら憲法改正の問題をどう国民に説明しますか?

国民が憲法判断することは決して難しいことではない

石破:日本国憲法には何が書いてあるか。ポイントは何か。現代には合わなくなっているところはどこか。それについて改正権者である国民は、何を判断しなければならないか。このような重要なことを、今の教育ではあまり教えられていないと思います。しかし、基本を知っていれば、憲法改正について一人ひとりの国民が判断することは決して難しいことではありません。

本質的な議論を避けて、表面的な言葉で取り繕えた時代は、もう終わった

では主権者の判断とは何でしょうか。それは「自分が総理だったらどう考え、決断するか」ということです。国民主権というのは、それだけ厳しいものなのだと、幼少のころから教育に組み込まなければならないと思います。

安全保障についても、今回はこの分野だけのものではないので、また回を改めたいのですが、大事な話こそ基本を話せばわかってもらえるはずです。

例えば防衛大臣時代、夏休み学習に来た小学生たちに「自衛隊とはなんですか」と聞くと、「戦争をする人たち」という答えが多く返ってきました。そういう答えをしてきた子供たちには、例えばこういう話をしました。「みんなはスポーツで試合に勝つために、毎日練習するよね。ここにいるお兄さんやお姉さんは『試合』がないようにするために、毎日『練習』をしているんだよ」と。キョトンとしている子供もいますが、これが抑止力を考える第一歩になります。

この国で安全保障を語る際は、常に「専守防衛」という言葉を使うことが基本とされてきました。では、「専守防衛」とは何でしょうか。これは、実は「日本の本土ぎりぎりで敵を迎え撃つ」ということになり、大変負担の大きい話です。「専守防衛」の考え方を貫くということは、万一の時、どうやって国民を安全に避難させるのかについて常に考えておかねばならないということになります。

一方、抑止力には、懲罰的抑止力と拒否的抑止力の二つがあります。どちらも相手に攻撃を思いとどまらせようというのは同じですが、前者は「攻撃をしてきたら、懲罰的な報復を行う」という脅しであるのに対し、後者は「攻撃しても意味がない、あるいはコストが高いのでやめたほうがいい」と慫慂(しょうよう)する考え方を指します。

現実的な抑止は、この二つの組み合わせで成り立っているのですが、あえていえば本来の抑止力は「日本に手を掛けると、わが国も壊滅的な被害を受けることになるからやめよう」と思わせる前者の懲罰的な抑止のほうです。しかし、こうした議論を真正面からすると、「お前は戦争主義者か」と言われたりします。

今、「専守防衛」を貫くことでどれだけの抑止力を維持できているのか、という検証は、公にはなされていません。憲法9条についても、2項で「陸海空軍その他の戦力は保持しない」と書いてあるが、憲法は自衛を否定はしていない、だから自衛のための実力組織たる自衛隊は戦力ではない、という議論がまかりとおってきた。言葉のまやかしをみとめてきたので、誰も、憲法を真剣に考えなくなったのです。

しかし、今や、世界はますます複雑化しています。集団的自衛権なしで安全保障は成り立たないのです。こうした本質的な議論を避けて、表面的な言葉で取り繕えた時代は、もう終わりました。

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