石破茂氏、「寄らば大樹という言葉は嫌いだ」 本当のことを言わなければ政治家ではない

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有馬:安倍内閣は「日本のGDP(国内総生産)600兆円」を目標に掲げていますが、率直に言って人口が減少する中で達成するのは容易ではないし、1人当たりGDPを増やすなどの考えが、まだ現実的だと思います。石破さんが安全保障の専門家だということは広く知れ渡っていますが、もし「石破内閣になったら、こういう経済政策をやる」というのはありますか?

「ローカル」と「住宅」で日本は復活する

石破:まず二つのことを申し上げたいと思います。一つはさきほどの地方創生とも絡みますが、従来型の公共事業や企業誘致ではない、新しい形で地方の生産性を向上させ、成長を促すことです。

例えば、地方では、今まではおコメを作ればJAが代わりに売ってくれたし、旅館を営業していればJTBがお客さんを連れてきてくれました。そこには生産性を上げて、「もっと稼ぐぞ」というマインドは醸成されません。逆に言えば、地方はそれだけ、伸びしろが大きいということにほかなりません。

経営共創基盤CEOの冨山和彦さんが著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)の中でも述べられていた通り、日本経済の中でトヨタ自動車などのグローバル型大企業(G型)がGDPに占める割合はせいぜい3割程度。雇用は2割に過ぎません。ほかは、ローカル型の産業(L型)が大半を占めているのです。ですから、L型にも大企業の経験則を導入し、コスト管理、在庫調整、IT技術など多くの方法で、地方の農林水産業・観光業・サービス業などの生産性を高めていけば、日本経済の足腰が強くなります。L型ではすでに雇用がひっ迫しているので、もし今の仕事がなくなったとしても、相対的に別の仕事に移りやすく、失業も起きにくいのです。

同時に、この国の人口減少を止めなければいけません。人口減少の元凶は、地方衰退の原因にもなっている、東京への一極集中です。地方が従来型ではない新しい形での産業を興し、生産性を上げることで、地方に人が戻っていく。経済においても人口においても、地方において再生産するメカニズムを機能させるのです。このような取り組みでどれだけローカルの経済規模が拡大するのかは、未知数ですが、人生の選択肢、職業の多様性を広げられれば必ず国民の「幸せ感」が向上すると思います。

もう一つは住宅です。日本人が、いつまで経っても「幸せを感じることができない」と思うもう一つの原因として、住宅事情があります。

例えば子供連れの若い夫婦が3人で狭い2DKに住むことは、幸せなのでしょうか。

一方で、1970年代以降、郊外に大量に建てられた一戸建て住宅は、いま子供たちが巣立ち、老人夫婦だけになっているところが急増しています。
こうした人たちがさきほどの若い子連れ夫婦に貸せれば、老人夫婦は賃貸収入を得ることができて不安が解消されますし、若い夫婦は都心から1時間のところで庭付き1戸建ての家に住むことが可能になるのです。

こうした人々のニーズに対して、制度はいまだ昔のままであり、十分に応えられていません。中古住宅の流通改革も、リフォーム時の金融税制などもさらに進めていく必要があります。ご存じのとおり、約1700兆円といわれる個人金融資産の大半は高齢者層にあります。日本版REITやリバースモーゲージなども組み合わせて政策を推進していくことで1%の17兆円でもマーケットに出せれば、経済は活性化します。また、住環境を充実させることで、若い世代が「もう一人子供を作ろうか」と自然に考えるようになり、次世代につながります。

有馬:安倍首相は、「成長戦略は、この道しかない」とアベノミクスの正当性を強調するわけですが、今の自民党はちょっとでもおカネが余ると、すぐに無駄遣いをしてしまう子供のようです。本当に必要なものにどれだけ使っているのだろうか、と。

石破:そもそも経済政策とは何でしょうか。アベノミクスでは、大胆な金融緩和で円を下げ、株価を上げることに成功しました。しかし、とうとうマイナス金利まで導入しているのに、ほとんどの経営者は、こんなに金利が低くても、おカネを使おうとしません。

機動的な財政出動にも、それによって人口が増えるのか、経済が成長するのかという視点が欠かせませんし、未来永劫続けられるものでもありません。「新しい消費を喚起するには」「生産性向上に寄与する公共事業とは」など、考えねばならないポイントは多くあります。

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