凡人でも、コツをつかめば天才になれる 名コーチ、高橋慶彦の天才論

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天才には何種類かいる

高橋には打撃の師匠がいる。史上2人目の2000本安打を達成し、コーチとして落合博満を育てた山内一弘だ。現役時代に毎日(現ロッテ)や広島でプレーした山内は84年、中日の監督に就任した。高橋は試合前に山内を訪れ、敵将にアドバイスをもらっていた。

あるとき、山内が突然投げてきたボールを高橋が手で捕ると、「おまえ、何で捕るんや?」と聞かれた。高橋は「ボールが来たからです」と答えた。すると山内は、「バッティングもそうならなあかん。考えている時間はないんやぞ。おまえは、考えて打っているやろ?」と言われた。つまり山内は、「コツをつかめ」と教えていたのだった。

高橋は両打ちを習得すべく、「1日24時間では足りなかった」と振り返るほど練習を重ねていく。ヒザを負傷している時期には、イスに座ってティーバッティングを行った。

「腕は空いているから。時間を大切にしなければいけない」。当時の広島は他球団を寄せつけない練習量で有名だったが、古葉は高橋について「あんなに練習した選手はいない。暇があったらバットを振っていた」と振り返る。そうして高橋は、球史に残るスイッチヒッターになった。

ロッテの2軍監督として若手選手を指導している頃、高橋はこんな話をしていた。

「天才って、何種類かいると思う。みんな、飽きずにやる天才になってほしい。人は飽きてしまうものだし、同じことをずっと続けるのはなかなか難しい。だから指導者として、それを何とかしなければいけないと思う」

凡人は周囲に飛び抜けた才能を見つけたとき、「あいつは天才だから……」と特別視し、自分の限界を決めつけがちだ。しかし、それは自身ができないことへのエクスキューズにすぎない。

高橋の言うように「天才的な感覚=コツ」だとしたら、努力次第では凡人でも身に付けることができる。その努力ができる者こそ、本物の天才なのだろう。

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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