55歳元金融屋が貧困生活に転落した深刻理由

貯金ゼロ、年収は800万円から280万円に

大学卒業後に就職したカード会社では、毎年販売促進の時期がやってくるたび、クレジットカードの新規会員を50人近く獲得するよう求められた。次いで勤めた医薬品販売会社での仕事は個人宅を訪問する営業で、毎月の売り上げ目標は1人当たり100万円。消費者金融会社では未回収率を減らすことと新規顧客の獲得、そして、不動産会社では競売物件の立ち退きから転売までのノルマを課せられた。

上司からは淡々と「(売り上げが)足りてないね。土日も出ないとダメかな」と言われたこともあれば、連日のように「あと何人? あと何人?」と迫られたこともあれば、ほかの社員たちの前で「なんで(新規契約を)取ってこれねえんだ」と罵倒されたこともあった。消費者金融会社では「お前はクビだ」という意味だったのか、怒った上司に突然、はさみでネクタイを首元から切り取られたこともあったという。

「体育会(気質)で、上から言われたら、何としてもやらなければと思ってしまう」というリョウタさんは必死で、時には手段を選ばずノルマをこなしてきた。

根っからの金融屋、不適切な営業は日常茶飯事

多重債務者と知りながら、クレジットカードを作らせたり、借金の取り立てに出向いた先で在宅かどうかを確かめるために郵便受けを無断でのぞいたりするのは日常茶飯事。違法なことだが、ダイヤル式の郵便受けのカギを解錠することは、今でもお手の物だ。取り立てを担当していた債務者が自殺したこともあったし、上司に命じられるまま、未回収率を低く抑えるための書類も偽造した。

医薬品販売会社では半年間、1日も休みなし。競売物件の立ち退きでは、「俺んちだー、俺んちだー」と言って柱にしがみつく高齢者を無理やり引きはがして戸外に放り出した。自分の背丈より高い、立派な仏壇がある旧家だったことを、鮮明に覚えているという。

こうした「頑張り」により、一時は成績優秀者として報奨金や家族旅行を贈られたこともある。しかし、体のほうがもたなかった。血尿が出たり、体重が短期間で20キロ以上落ちたり。ストレス解消のための暴飲暴食がたたったのか、40代で糖尿病になった。

結局は、体調を崩して退職するか、不適切な営業や書類偽造の詰め腹を切らされて解雇されるか――。そんな自らの履歴を、リョウタさんは「使えないヤツだと言われて無視されるのが寂しかったのかもしれない。それに、契約社員だったときは、ノルマを達成しないと契約更新してもらえないという不安もありました」と振り返る。

壮絶なノルマ地獄を渡り歩いてきたわけだが、一方でリョウタさんは取材中、何度も「僕は根っからの金融屋なんで」と繰り返した。高収入を得ていたカード会社やサラ金時代への郷愁なのか、プライドなのか。また、ノルマ達成のために「犠牲」となった人々への罪悪感もあまりないように見えた。消費者金融会社に勤務していたとき、担当していた飲食店の店主が自殺したことがあったが、そのときも真っ先に頭をよぎったのは「ああ、これで回収ができなくなってしまう」という心配だったという。彼の理屈はこうだ。

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