社員をやる気にさせる「インターナル・ブランディング」
ブランド戦略論で言うと、顧客を含む社会全体へ向けてブランド価値を発信していく前に、まず自分たち自身がブランド価値を深く共有し、その実践に主体的に取り組む運動論を立ち上げることが重要です。
マニュアルと講習で技術論は教えられるかもしれませんが、そこに魂を込めるには従業員自身が提供するブランド価値を本当によいものだと信じていることが必須です。
教科書的な例は、高級ホテルチェーン「リッツ・カールトン」で全従業員が共有している「We are ladies and gentlemen serving ladies and gentlemen.」というモットーです。お客様が紳士淑女なのだから、私たちもまた紳士淑女として振る舞いましょう、という簡単な約束事だけで、ホテル業務で発生するあらゆるサービス提供やトラブル対応に取り組むときのすべての指針となります。
もっと身近な例は福井市の三和メッキ工業にあります。この会社では社員のやる気を引き出す、まさにインターナル・ブランディングの手段として「めっき職人」という合言葉と、社員自身を描いたちょっとカッコいいイラストを使っています。「めっき職人」を名乗ってそれに恥じない仕事をすることがプライドと収益の源泉である、という意識を一人ひとりが持つことで会社全体が生き生きと動いている例です。
さらに踏み込んで、三和メッキ工業ではメッキ作業に関する要求に対して「できないものはない」と宣言しています。もちろん実際問題「できないこと」はあるでしょうが、業界常識で限界を設定せずに、創意工夫で常識を変えていく気概を持つことが、社員の自立と技術革新を生むのだと思います。
サントリー創業者の鳥井信治郎さんの言葉として有名な「やってみなはれ」も同様の例です。「やってみなはれ」という物言いの背後には、「結果責任は俺がとるから」というサポートや激励が感じ取れます。「つべこべ言わずにやればいいんだ」という突き放したニュアンスがないところが私は好きです。
実際私も10年以上前の話ですが、サントリーをクライアントとして担当していた時期があり、社員の皆さんが新製品開発や新カテゴリー創造に積極的にチャレンジしているのを目の当たりにして、「やってみなはれ」精神が会社のDNAとして生きているのを感じました。
インターナル・ブランディングとはベクトルのようなものだと思います。一人ひとりの力は小さくとも、すべての努力が同じ方向を目指していれば、全体として強大な運動エネルギーが生まれます。そしてこのようなやり方は日本人や日本企業にいちばん適していると思います。
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