プレステ4巻き返しへの課題 栄枯盛衰の家庭用ゲーム機市場

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PCエンジン以上に、歴史の中に埋没してしまったハードとしては、バンダイが果敢に挑戦した「ピピンアットマーク」がある。ピピンは、バンダイがあのアップルと提携して1996年に発売したゲーム機である。98年には撤退するのだが、なんと三菱電機に生産してもらった初期出荷分の5万台ですら完売できなかった。ゲームビジネスの難しさを象徴する失敗劇だった。このピピン失敗後、バンダイは「セガサターン」を擁する家庭用ゲーム機大手の一角だったセガとの合併交渉へ向かうが、交渉は破談。その後、2005年にナムコと経営統合し、現在に至っている。

そのセガも1988年発売のメガドライブがピークであり、1994年発売のセガサターンからはプレステの勢いに押され、不振に陥った。セガサターンの後継機として、社運をかけて取り組んだ「ドリームキャスト」では、マイクロソフトのウィンドウズCEを搭載し、インターネット接続機能を組み込むなど先進的な機能がセールスポイントだった。しかし、巻き返すことはできず、その資産の一部はマイクロソフトのXboxへと引き継がれていった。

そのほか、富士通、パナソニック、日本ビクター(現JVCケンウッド)などが、それぞれ独自ゲーム機、互換ゲーム機に乗り出した時期がある。こうした百家争鳴、栄枯盛衰の中で、ずっと業界のリーダーであり続けたのが、任天堂だ。その任天堂は現在、スマートフォンで遊べるカジュアルゲームの普及の影響により、苦戦を強いられている。しかし、「遊びやすい専用機」の需要は、今でも確実にある。専用コントローラーやモーションキャプチャーを生かした周辺装置など、専用機ゆえの楽しさをアピールできるかどうかが生き残りの鍵を握っている。

プレステ3の資産をどう引き継ぐか

ソニーは、栄枯盛衰の激しいゲーム機市場において、これまで上々の舵取りをしてきたといえる。しかし、市場はカジュアルゲーム全盛期であり、専用ゲーム機市場は成熟から衰退へと向かっている市場だ。プレステ2と比べるとプレステ3は伸び悩んでいる。最新の携帯型ゲーム機も「PS Vita」も大不振だ。この環境から巻き返すのは容易ではないだろう。

前評判もあまりよくない。特に、プレステ3のディスクとの後方互換性を省くことを明らかにしたことが、ユーザーの反発を招いている。

新しいユーザーが次々に購入してくれるような伸び盛りの市場では、後方互換性を無視しても傷は浅いかもしれない。任天堂はゲームキューブまでは旧機種用のソフトを遊ぶことはできなかった。しかし「ゲーム離れ」からの巻き返しを誓ったwiiとwiiUでは、1世代前のソフトを利用できるよう、後方互換性を持たせている。携帯ゲーム機の「3DS」においても過去ハードである「DS」のカードで遊ぶことができるよう設計している。

ソニーは当初から後方互換性を重視してきた。プレステ2では初代機との互換性を維持。プレステ3でも、初期のころはプレステ2を動かすチップセットを搭載することで後方互換性を維持していた。しかし、現行のプレステ3では互換性がない。そしてPS4でもディスク互換性はない。セルを継続生産できないため仕方がないのだが、成熟市場において、既存ユーザーをがっかりさせるやり方は、得策ではない。

ただし、プレステ1~3のソフトについてはクラウド上に置きストリーミングで楽しめるようにする予定だ。あともう一歩の工夫として、すでにディスクを購入しているユーザーについては、これまでのゲームデータを引き継ぎ、新たに購入しなくても遊べるようにしたらいいだろう。とことんファンを大事にしている姿勢を見せれば、反感は和らぐだろう。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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