加盟店が値段も決めるサーティワンの「出店力」
店舗ごとの独自性 FCに自由裁量と責任
こうした基盤を整えて、社長と副社長とが約200人の加盟店オーナー全員と面接、3年以内に店舗を改装する計画を実現させていった。
歯車は回り出した。2年後の02年には改装効果が表れ始め、店舗数も純増に転じる。
当時、世はSCの出店ラッシュ。SCにとってアイスクリーム店は需要が高い業態だ。厨房いらずで坪当たり売り上げ単価が高く、家賃収入の歩合がよい。サーティワンにとってもSCは好都合。集客力があり、過去のデータから売り上げのメドがつき、オーナーへの出店提案もしやすい。そのため新規出店のほぼすべてをSC内に絞り込んだ。SCとの信頼関係が高まるにつれ、出店時には決まってサーティワンに声がかかるようになった。00年に113店だったSC店舗は、07年末には5倍の597店にまで増えている。
出店に際し重視したのは、「独自性」だ。SC側の悩みは、テナントにチェーン店が増えると近隣のライバル店とダブってしまい、来店客が飽きてしまうこと。通常、大手外食チェーンは出店費用を抑えるため、店舗形態や内装を統一する。そこでサーティワンは店舗のロゴ以外は各店の自由度を高める方針を採った。
丸い看板を天井からつるす、広く見せるために鏡を置く、間接照明で柔らかな明るさを出す、パティオを作ってウッドデッキを置く、等々。SCで人気の高いサンデーを出すなどメニューも工夫した。加盟店は裁量が増せば責任感も増す。業績のよい店舗はオーナーの間で話題となり、アイデアに詰まったオーナーが自主的に見学に訪れ、自店の参考にするといった好循環が生まれた。
店舗ごとの独自性を生む仕組みはほかにもある。アイスクリームの販売価格を上下30円の範囲内で店舗側が自由に設定できるのだ。本来、本部は加盟店に希望小売価格は提示できても、販売価格を指定することは独占禁止法で制限されている。マクドナルドなど一部チェーンで本部主導の地域別価格を導入しているが、サーティワンの場合は店舗側が自主裁量で決定できるのが最大の特徴。テナント料が割高な店舗は、商品価格に上乗せして採算を維持することも可能になるのだ。
さらに、サービス面では、「サプライズ」改革を展開した。
06年以降、9月中旬から10月末に実施しているキャンペーン「ワンダフルハロウィン」では、期間限定商品を投入し、店内の装飾も従業員の衣装もハロウィン一色。アイスクリーム需要が細る秋口の販促策だが、店長を集めて行う事前の研修会では、本部スーパーバイザーが仮装して迎える。店長のサプライズが顧客のサプライズへつながっていく。
アイスクリームという商品は、天候や世相の浮き沈みで売り上げが左右される。マーケティングが効かないからこそ、「楽しい」「買いたい」という気分を盛り上げるサービス精神がことのほか重要になる。
ただ、ここへきてサーティワンを取り巻く環境が、がぜん厳しくなっているのは事実。大手SCの店舗再編がいよいよ本格化、出店による成長をひた走ったサーティワンには逆風そのものだ。それでも「1300店計画」の旗を降ろす気配は今のところない。テレビCMが有効に作用するラインといわれる500店を突破、今後は宣伝積極化と、この間培った接客術でファンを増やし、出店を継続していく方針だ。この逆風下に仕掛ける次の“サプライズ”にこそ、真の手腕が求められる。
(山本亜由子 撮影:今 祥雄 =週刊東洋経済)
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