甲子園優勝校、地元の「祝勝セール」は厳禁?

なぜ一商店の営業努力にまで口を出すのか

その理由は、高校野球の理念が何かを考えれば容易に察しがつく。日本高野連のホームページにはその基本理念である『日本学生野球憲章』が掲載されている。

そこには、「学生野球における基本原理」として、「(高校野球は)教育の一環であり、平和で民主的な人類社会の形成者として必要な資質を備えた人間の育成を目的と」し、「友情、連帯そしてフェアプレーの精神を理念とする」とあり、さらに「野球部または部員を政治的あるいは商業的に利用しない」と記されている。

この文面を素直に読む限り、凱旋パレードや祝勝セールは地元自治体や経済界による「高校野球の商業利用」に他ならないことから、「教育の一環」としての高校野球において待ったがかかるのは当然なのである。つまり、ここで私たちが考えるべきことは、なぜここまで厳しいルールを高野連が設けなければならないかという点なのだ。

『朝日新聞』が「野球害毒論」記事を22回連載

いわゆる「野球害毒論」をご存じだろうか。これは、野球が青少年の育成のために有害と主張する論であり、1911年8月29日から22回にわたって『朝日新聞』に連載された「野球と其害毒」という記事に基づいている。そのすべてを紹介するのは冗長なので、批判のさわり部分を取り上げることにしたい。

・相手を欺くために眼を四方八方に配り神経を鋭くしてやる遊びである
・剣道や柔道の選手のように試合をするときに礼を尽くさない
・練習や試合に長い時間を浪費し学課が疎かになる
・片方の手ばかり使う球技であるため発育が偏り体育としては不完全である
・用具が華美に走る傾向にあるため余計な費用がかかる
・学校用地のほとんどが少人数の野球のために専用されている
・相手を罵倒するようなヤジが学生の品位を汚している

 

他にも、入場料を取るのはけしからんとか、生徒が学校の広告塔の役割を担わされているなどといった批判も展開されている。

この「害毒論」は、新渡戸稲造や乃木希典など著名人による野球批判の言説が登場したこともあって反響がきわめて大きく、翌月には野球擁護派からの反論が『東京日日新聞』に掲載されるなど、大きな議論を巻き起こした。

反論の要点としては、この種の「害毒」は野球に限ったことではなく、どんなスポーツにも多かれ少なかれあてはまるものであり、問題があるとすればそれは若干の行き過ぎによるものだとしている。

興味深いことに、この連載のわずか4年後に大阪朝日新聞社の主催による中等学校野球大会、すなわち記念すべき第1回選手権大会が豊中グラウンドで開催されている。そして、1924年には阪神電鉄の手によって現在の甲子園球場が完成するのである。

次ページ批判から高校野球を守るための「精神性」
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